この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。
未払い残業って時効が何年になるんでしたっけ?
2年から3年に変わります。
もうこれは決定ですよね?
もう決定です。
で、さらに3年から5年になるんじゃないかって。
そうですね。おそらく2025年ぐらいには。
2025年?じゃあ、まだ多少の猶予はある。
ちょっと猶予がある。でも5年になったらかなり厳しいですよ。
3年まではもうあっという間ですよね。
この4月からスタートします。
それは中小企業も同時ですか。
中小企業も同時にスタートします。
中小企業にも猶予なしですか?今回は。
猶予なしですね。
ということは「3年前に辞めた子が訴えてくる」可能性があるってことですか。
2020年の4月からスタートなので、3年分を訴えてくるのは2023年からですね。
じゃあ2020年以前は訴えられない?
いや、2年分は訴えられます。ただ一気に増えるのは恐らく2023年の4月1日。
そこがXデー?
はい。3年分さかのぼれるので。まとめて全員が来たら恐ろしいです。
来るんですかね、実際。
来ると思います。恐らく10倍ぐらい「弁護士が参入してくるだろう」と言われてますから。
いわゆる過払金請求の次にくるブームってことですよね。弁護士さんがみんなそこを狙って。
そうです。時効が3年になると生産性がすごく上がりますから。
報酬が一気に増えるので、どんどん弁護士さんが参入してくる。
はい。間違いないです。
テレビCMとかも出てきますかね。過払金の時みたいに。
出てくるでしょうね。「あなたの未払い残業代、取り返せます」みたいな。
今まで知らなかった人たちも、それで火をつけられて。
そうです。残業請求アプリってのがあるんですよ。
残業請求アプリ?
ザンレコっていうんですけど。「これだけ請求できますよ」みたいなアプリを弁護士事務所がつくってる。
すごいですね!もう完全にやる気ですね。弁護士さんたちは。
はい。アプリの右下に「弁護士に相談する」っていうボタンが付いてるんです。
弁護士にいつでも相談できちゃう(笑)
そうです。「退職代行アプリ」も付いてて、残業とセットで請求する。
私が行ってるジムのトレーナーさん、ものすごく時間外労働が多いんですよ。でも「残業をつけるとインセンティブが減るから」って、つけないようにしてるそうです。
それ、絶対訴えられますね。
でも本人が選べるみたいですよ。インセンティブを取るか残業代を取るか。
それは、むしろ二重取りできます。
そうなんですか!じゃあ「インセンティブ出すから残業はつけない」みたいなのはダメ?
「インセンティブとしての支払い」としか認められない。だから逆に残業代は払われてないことになる。後で請求されちゃう可能性大です。
トレーナーとしての仕事が終わってからも、在庫チェックとか、全体ミーティングとか、あるらしいんです。これも労働ですよね、当然。
スポーツクラブって結構、闇が深いんですよ。テニスコーチとかも無理やり業務委託にされてたり。
そういう場合はどうなるんですか?
実態が雇用と変わらなかったら残業請求できます。片付けの時間とか。
「1レッスンいくら」みたいな委託だったら、片付けはさせちゃいけない?
片付けも含めて、ちゃんとお金を払っていればいいんですけど。
レッスン料しか払ってないとアウト。
片付けの指示を出してたらアウトですね。
なるほど。
スポーツクラブってお客さんが勝手に来るので、それに対応しなきゃいけない。そうなるともう雇用なんですよ。
業務委託では通らないと。
「私は従業員です」って残業請求してくるケースが、めちゃくちゃ出てくる。
でも雑用って絶対あるじゃないですか、スポーツジムって。
そうですね。スポーツクラブはたぶん、サービス残業がかなり多いと思います。
ですよね。
トレーナーさんとの関係性がいいときは、問題が表面化しないんですけど。
でも後から請求されるわけでしょ?
退職と同時に請求してくる。「あいつに訴えられたら死んでもいい」って経営者は言うんですけど。後から訴えられてめっちゃ凹んでる。
辞めるときって、少なからず揉めますもんね。
ですね。辞めさせてもらえないとか。「もう明日から来るな!」って罵らたりとか。
ありそう。
あと多いのは「言われてた条件と違う」ってのを、辞めるときまで言えずにいて、やめた瞬間に請求してくる人。
会社が負けるんですか?そういう場合は。
負けますね。
ちなみに賞与はどうなんですか。賞与がまったくないのは労働法的にOK?
賞与がないのはOKです。
0でもいいんですか?
就業規則に「賞与あり」って書いてあったらダメですけど。「会社業績による」とか「賞与はありません」って書いとけば、払う必要は全くない。
そうなんですか。
はい。賞与は自由なんで。「必ず1カ月分払います」って書いてあったら駄目ですけど。「1カ月分が目安で業績悪いときは払いません」と書いておけば大丈夫。
給料に関してはえらく厳しいのに。賞与はゆるいんですね。
「月給は生活給」という考え方が明確なんですよ。賞与はあふれた利益を還元してるだけ。
だから経営者は給料を増やさずに賞与を出したがるんですね。
そうです。月給は労働契約法で下げられないようになってるので。
絶対に下げられないとなると、上げるのは怖いですよね。
それが足かせになって「本当は給与を上げたいんだけど、上げられない」という状況になってます。
本末転倒ですよ。
はい。でもこれはなかなか変えられない。ここに触れると選挙で大敗するので。
久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。