さよなら採用ビジネス 第105回「斜陽産業の末路」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第104回『家庭が中心になる時代』

 第105回「斜陽産業の末路」 


安田

アパレルNo.1だったレナウンがついに倒産しました。

石塚

No.1だったのはかなり前ですけどね。

安田

いまは圧倒的にユニクロですよね、1番は。

石塚

はい。

安田

コロナが引き金になったって話ですけど。もしコロナがなかったとしても、いずれこうなってますか?

石塚

あんまり報道では言われてませんけど、レナウンって1回白旗上げてるんですよ。

安田

え!そうなんですか。

石塚

はい。事実上の倒産。確か2010年だったと思います。

安田

事実上?

石塚

中国企業の子会社になって、資本がまるっきり変わってるんです。いわゆる「レナウン娘」のレナウンって1回終わってるんですよ。

安田

へえ。そうなんですか。

石塚

「よくぞここまで持ったな」「こんど引き受ける会社はないだろうなあ」っていうのが正直なところです。

安田

すでに「日本企業ではなくなってた」ってことですか?

石塚

ニッチもサッチもいかなくなって、中国資本に株を持ってもらった。僕は事実上あれを倒産だとカウントしてます。

安田

なるほど。で、その中国にも見捨てられたと。

石塚

日本での販売はもう伸びないので。

安田

伸びませんか。

石塚

結局レナウンって「百貨店という売り場で服を売る時代」の象徴的な王者なんですよ。

安田

百貨店も厳しいですからね。

石塚

アパレルを買う場所が「百貨店じゃなくなっちゃった」ということの証明でもある。

安田

なるほど。

石塚

ユニクロは百貨店にもあるけど、どちらかっていうとショッピングモールとか、郊外型ですよね。

安田

そういうイメージです。

石塚

さらに、いまや通販で服を買うことに10代20代はまったく抵抗がない。こういう変遷がある中で、多分もう、持ってるリソースをどう使おうとも「再生は厳しい」と見たんでしょう。

安田

記事によると、ヒットブランドが2つしかないんですよね?

石塚

どのふたつですか?

安田

『アーノルドパーマー』の傘マークのやつと、あと『ダーバン』っていう、アランドロンがCMに出てたブランド。それ以来ヒット商品がないと。

石塚

安田さん『J.CREW』ってわかります?

安田

聞いたことあります。

石塚

あれもレナウンです。日本のファッション通販のさきがけです。

安田

へえ。そうなんですか。

石塚

正確にいうと、レナウンがJ.CREWの販売権を買って日本で大ヒットさせた。

安田

「レナウンは新しい商品を生み出す力がなかった」って書いてましたけど。

石塚

う〜ん。そもそもトレンドというもので動く幅が、すごく小さくなっちゃったので。

安田

トレンドで動く幅?

石塚

たぶん安田さんも20年前は、すごくトレンドに敏感だったと思うんですよ。自分が着るものに関して。

安田

確かに。「このブランド」って決めてましたね。

石塚

いまはどうですか?ブランドを意識しますか?

安田

う〜ん。「このブランドが欲しい」ってのは、ないですね。

石塚

それを圧倒的に加速させてしまったのがユニクロなんですよ。ブランドって結局百貨店にしかないから「百貨店で買わざるをえない」という構図だったんです。

安田

じゃあレナウンは「ブランドを売るアパレル会社」だったんですね。

石塚

そのとおりです。

安田

だったらブランドを買うだけじゃなく、自分たちで開発もしないと。そこにエネルギーを注がないのは戦略として致命的ですよ。

石塚

百貨店でモノが売れた時代って、正直、楽してたわけですよ。何もしなくても百貨店に来た客の何割かは買ってくから。

安田

それは「売れるブランド」があったからですよね。

石塚

そうですね。「ブランドさえあれば売れる」という感覚。三陽商会でいう『バーバリー』みたいなもんです。

安田

三陽商会もバーバリーに契約解除されました。

石塚

だから、たぶん時間の問題だと思う。まあ三陽商会はキャッシュリッチだけど。

安田

レナウンもお金がたくさんあって「まだまだ余裕だよ」って言ってるうちに、こうなったって話です。

石塚

余裕がありすぎたんでしょうね。

安田

余裕があるがゆえに、組織が頑張らない体質になっちゃた。

石塚

じつはレナウンって、アパレル業界では人材輩出企業で知られてるんですよ。

安田

そうなんですか?旧態依然とした会社のイメージですけど。意外ですね。

石塚

変化に鈍くて、先進性があまりない社風だから「優秀な人ほど外に出てしまった」っていう構図。

安田

なるほど。

石塚

もっと優秀な人が活躍しやすい会社だったら、結果は違ってたかも。レナウン出身で社長をやってる方が何人もいますから。

安田

中には優秀な人がいたってことですね。

石塚

結構多かったと思います。

安田

優秀な人は社風に耐えきれなくて出ちゃったと。

石塚

やっぱりブランド頼みというか。既存のブランドで百貨店のいちばんいい売場を取れるから。楽して商売できる時間が長すぎたんですよ。

安田

皮肉なもんですね。

石塚

はい。うまくいきすぎて「自分たちで何かやろう」なんて必要がなかった。

安田

そういう若者が出てきても「余計なことすんな!」って感じで。

石塚

はい。だから、いちばん脂がのってるときに外に飛び出していく。

安田

結果的にレナウンは倒産したわけですけど、最後まで残ってた人材ってどうなるんでしょう。

石塚

優秀な人はあらかた出ちゃったからなあ。まあ、好意的に言って1割じゃないでしょうか。好条件で引っ張られるのは。

安田

それは役員クラスとか、そのへんですか?

石塚

いや、むしろ現場の技術。たとえばパターンナーとか、生産製造とか、生地を買い付けるとか。まさに腕の世界のところ。

安田

現場のスペシャリストってことですか?

石塚

そうです。そこには結構いい人が残ってると思う。

安田

役員はじめ給料の高い管理職は厳しいですか?

石塚

一部除いて全員終了でしょうね。

安田

これまでの人脈で「百貨店の上層部にコネがあるよ」みたいなのは。使い物になりませんか?

石塚

いまは百貨店自体が余裕もないし、死んでますから。

安田

確かに。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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