第34回 「人口減少時代の病院経営」
お医者さん
開業して3年。新規患者の獲得を必死になってやってきた。
お医者さん
おかげで患者数は十分だ。そろそろ医師やスタッフを増やしてもいいかもしれないな。そしてさらに患者数のアップを……
先生、それは少し待ったほうがいいかもしれません。
絹川
お医者さん
え……どうして? ビジネスモデルが形になったら、それをベースに拡大していくのは当然じゃない?
お医者さん
…って、どなたですか。
ドクターアバターの絹川です。お医者さんの様々な相談に乗りながら「アバター(分身)」としてお手伝いをしています。
絹川
お医者さん
ふうん…それで、なぜ待ったほうがいいと?
先生が得意としているのは、新規顧客へのアプローチですよね。
絹川
お医者さん
うん。うちはまだ開業して間もないからさ、新規を取っていかないと話にならないんだよ。
具体的にはどんな施策を?
絹川
お医者さん
まあ、いろいろあるよね。病院の看板を目立たせたり、周辺地域にチラシを撒いたり。リスティング広告とかSNS広告とか、ネットのPRにも力を入れたし。
それらが功を奏して、新規患者さんは順調に増えている。
絹川
お医者さん
その通り。ここまでは想定以上にうまくいってるよ。だから新しい医師やスタッフを雇って、この勢いをさらに大きなものにしたいんだよ。
確かにそれも1つの戦略ですが、私としては、人を増やすのはやめた方がいいのではないかと思います。いや、もっと言えば、新規にばかり注力する体制も考え直した方がいい。
絹川
お医者さん
ちょ、ちょっと、僕の話聞いてた? うちは新規施策がうまくいって成功したの。それをやめてどうするんだよ。
理由としては2点あります。1つは、これからの人口減少が明確だということです。
絹川
お医者さん
人口減少?
そうです。これからどんどん人が減っていくのは確実なので、新規だけではいずれ立ち行かなくなってしまいます。そしてもう1点は、顧客心理がどんどん変化しているということです。
絹川
お医者さん
変化って?
「必要だから買う」「安いから買う」ではなく、「好きだから買う」「応援したいから買う」という<ファン心理>が非常に重要になっているんです。
絹川
お医者さん
……まあ、それは確かにわからなくもない。僕自身もそういう基準で選んでいる商品があるし。でもそれがうちの病院にどう関係するの?
つまり、これからの時代には「患者さんに好きになってもらう」「先生のファンになってもらう」ための施策が求められているということです。端的に言えば、リピートと紹介です。
絹川
お医者さん
リピートと、紹介……そうか、つまり新規ではなく既存患者。
仰るとおりです。これまでの新規向け施策により、先生の病院には既存客ができた。ここで既存客向けの施策をしっかり打っていくことができれば、患者さんはより先生や先生の病院が好きになり、リピートしてくれます。そして「あそこの先生とってもいいわよ」と紹介もしてくれるでしょう。
絹川
お医者さん
なるほど。ここで医師やスタッフを入れて新体制を作るより、今の体制をより強固にしていくのが重要ということか。
ええ。せっかく先生や先生の病院に興味を持ってきてくれた新規の患者さんを、根強いファンに育てていくということです。
絹川
お医者さん
なるほどね。確かに新規オンリーのやり方だと、常に患者さんが入れ替わっているような状態になってしまうかもしれないな。それは僕自身も望んではいない。
患者さんに来てもらうためにどうするか、だけでなく、来てもらった患者さんにどんな価値を提供するか。人口減少が確定的で、かつファン心理が重要になってくるこれからの時代には、そういう観点が大切なんです。
絹川
お医者さん
理解できたよ。でも、これまで新規施策ばかりだったから、既存客向けのアプローチ法がよくわからないんだ。そのあたり、相談に乗ってくれる?
もちろんです!お任せください!
絹川
医療エンジニアとして多くの病院に関わり、お医者さんのなやみを聞きまくってきた絹川裕康によるコラム。
著者:ドクターアバター 絹川 裕康
株式会社ザイデフロス代表取締役。電子カルテ導入のスペシャリストとして、大規模総合病院から個人クリニックまでを幅広く担当。エンジニアには珍しく大の「お喋り好き」で、いつの間にかお医者さんの相談相手になってしまう。2020年、なやめるお医者さんたちを”分身”としてサポートする「ドクターアバター」としての活動をスタート。