第122回 週休3日制の意図を読む!

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第122回「週休3日制の意図を読む!」


安田

選択的週休3日制?それを国が後押ししてると。

久野

はい。そういう方向です。

安田

みずほ銀行が、たしか週休3〜4日OKでしたよね。

久野

そうです。本人が希望すれば休める。

安田

みずほ銀行は「働いてる時間に応じて給料が減る」という制度で。国が推奨する「選択的週休3日制」も給料が減るんですか?

久野

週5が週4になるので、普通に考えて労働契約上は5分の4になる。

安田

ということは企業の負担が少なくなると。

久野

その代わりに「雇い続けてください」ということですね。

安田

なるほど。社員さんは「減った分は副業などやって稼いでね」っていう。

久野

そういうメッセージですね。

安田

ネットでは「週休3日では仕事が回らない」という意見が多かったです。

久野

中小企業の経営者は概ねそういう意見だと思います。今でも人手が足りないので。

安田

働く側も「給料が減るんだったら休みたくない」という意見が多かったです。

久野

私の予想では「週休3日だけど給与は減らない」という会社が出てくる。

安田

え!出てきますか。そんな会社。

久野

過去に週休2日になったときも、経済成長しましたよね。

安田

確かに。あの時は給料が減りませんでした。

久野

そもそも給与を下げたら人がいなくなるじゃないですか。

安田

だけど給料を下げないで「休みだけ増やす」なんて、可能ですか。

久野

生産性が高い企業ならできる。「週休3日にします。給与は変わりません」って言った瞬間に、そこに人がぶわーっと集まってくる。

安田

そりゃあ集まるでしょうけど。

久野

そこまでやる会社が必ず出てくると思います。もともと競争力の高い会社もありますから。

安田

週休3日でも利益が出る会社?

久野

はい。そこにいい人材が集まって、さらに競争力が高くなる。

安田

じゃあ生産性が低い会社は・・・

久野

生産性の低い会社は振り落とされていく。

安田

厳しいですね。週休2日でもしんどいのに。

久野

「まだそんなことやってんの?」って言われる時代が必ず来ます。

安田

「今どきまだ週休2日しかないよ」みたいな。

久野

そうなると思います。

安田

週休3日で回らない会社は淘汰されていくと。

久野

はい。

安田

給料が減らないんだったら、みんなそっちの方がいいですもんね。

久野

国が「この方針でいく」と決めたら、やる企業は必ず出て来る。これは歴史が証明しています。

安田

文句言ってる人は多いですけど。

久野

文句を言っても必ずそうなります。最低賃金もそうですけど。

安田

つまり「実質的な昇給」ってことですよね。

久野

そうです。国は一人当たりの収入を増やしたい。

安田

でも実際に支払う給料が増えるわけではない。

久野

そこがポイントですね。

安田

給料を増やすより「休みを増やすから、どこかで稼いでね」という方が楽だと。

久野

大企業だったらすぐにでもできると思います。

安田

大手はかなり無駄な仕事をやってそうですもんね。でも中小企業は難しいですよ。ものすごい労働集約型ですから。

久野

労働集約型のビジネスは厳しいと思います。

安田

ですよね。

久野

だけど「労働時間を減らしていく」「休みを増やしていく」という流れは、もう決まっているので。

安田

政治家の発言を見てるとそんな感じがしますね。「休日を生かして新たな能力を身に付ける」「それが持続的な経済成長をもたらす」って。

久野

労働時間を減らし続けると、必然的に生産性の高い会社に人が集まるようになる。

安田

それしか選択肢がないですもんね。

久野

まず労働集約型のビジネスから人がいなくなっていきます。

安田

人がいないと成り立たないですよ。

久野

だから労働集約型の企業も報酬を上げざるを得なくなる。

安田

できますかね。

久野

それが国の意図するところなので。やるしかない。

安田

いわゆるエッセンシャルワーカーの報酬を、上げていくってことですか。

久野

そこはひとつの狙いだと思います。

安田

そのための週休3日制だと。

久野

今のままだと誰もやりたがらないですから。

安田

無人化という方向もありますよ。

久野

そんなに単純じゃないです。たとえば安田さんはどうですか?介護要員としてロボットがお風呂に入れに来るとか。

安田

私は人間よりロボットの方がいいですけどね(笑)

久野

機能がちょっと悪いやつですよ。

安田

機能が悪いやつ?それは嫌です。

久野

「もうちょっとちゃんとしろよ」みたいなロボットだと、嫌じゃないですか。

安田

それはもちろん嫌ですけど。だけど「自分のことは自分でやりたい」ってみんな思ってるはず。ロボットのサポートで風呂に入れるのは理想だと思いますけど。

久野

エッセンシャルワーカーの仕事って、そんなに単純じゃないんですよ。

安田

確かにそうですね。人間にしかできない仕事もたくさんありますから。

久野

すべてをロボットにするのは不可能ですね。

安田

週休3日制になったら人は集まりますか。

久野

人気職種にはならないかもしれませんが、単価が高い職場には人が集まります。

安田

介護の給料を増やそうと思ったら、介護報酬も増やさないといけないですよ。国にそんな予算あるんですか。

久野

ないですね。そこは増やせない。

安田

給料だけ増やしたら会社がつぶれます。

久野

だからお客さんからもらうしかない。

安田

払ってくれない人は福祉のレベルを下げるんですか?

久野

これまでのような条件では「福祉を受けられなくなる」ということです。

安田

税金が上がるのか、福祉のレベルが下がるのか。どっちかだと。

久野

両方って絶対無理ですから。

安田

政党もそれで分ければいいのに。「うちの党は税金を高くするけど福祉レベルも上げる」「うちの党は税金を上げない代わりに福祉のレベルも下げる」って。

久野

そしたら国民も選びやすいですね。でも絶対にそうならないですけど。

安田

なりませんか。

久野

どちらの票も取り込みたいので。マイナスなことは誰も言わないんですよ。

この対談の他の記事を見る



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

感想・著者への質問はこちらから