第156回「共助の国(第7話)」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第156回「共助の国(第7話)」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

第6話のお話。ジジョロンの本拠地に向かう子供達の一行は、敵軍を避けるため迂回ルートに。その道案内を妖怪ジャオに頼るが、本拠地の近くまできた時、ジャオは「本」を奪って逃げ出そうとする。それに気づいた子供達は聖なる鏡「ヤタキョウ」をジャオに向ける。すると妖怪から元の子供に戻り「本」も無事取り返した。

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共助(ともすけ)の一団は、ジジョロンの注意を子供達からそらすため、不利とわかっていながらもジジョロンの本隊の中にあえて飛び込んでいく。さすがの本隊、最強の兵を揃えており、共助たちは次第に追い詰められ、遂に四面楚歌に。

子供達一行は、ジジョロンが共助の攻撃に注意を向けているその隙をついて、本拠地の地下深くにある「石櫃」にまでたどり着いた。この石櫃の中に「本」を入れて封印すれば全てが終わる。

ずっしりとした石櫃の蓋を開くと、中に青い玉のついた首飾りが置いてあった。「なんだろう?」と子供達が手に取って見ているその後ろで、ジャオが鬼の形相に変わっていた。そして「本」を奪いに飛びついてきた。油断していた子供たちはあっさりと本を奪われてしまう。

「ついに俺の愛しい本を手に入れた!」ジャオは飛び上がって喜んでいる。子供の一人が機転をきかせ「この首飾りをあげるから本を返して」とジャオに向けた瞬間、ぱぁっとフラッシュのように玉から青い光が放たれた。目が眩んだジャオはフラフラになり、それを見た子供達は力を合わせてジャオを石櫃に押し込んだ。ジャオは「本」とともに石櫃の中に封印された。瞬間、大地震が起こり本拠地は崩れていく。急いで、子供達は石櫃のあった地下から外に逃げ出した。

共助の一団はジジョロン軍に囲まれ絶体絶命のピンチだったが、突如地震が起こり、共助たちの周りに地割れができた。その裂け目に包囲していたジジョロン軍が次々と吸い込まれるように落ちていく。その様子を見ていた他の兵も蜘蛛の子を散らすように逃走していった。

子供達は地上に出たものの、周囲一体が地割れしており立ち往生していた。そのとき、上空から魔法使いが大きな鳥に乗って迎えにきた。大鳥に乗って本拠地から飛び去る。鳥の背で魔法使いが子供達に言った。「お前たちの持っている首飾りについている玉はヤサカニという聖玉なんじゃよ。それが光っていたお陰でお前さんたちを見つけられたわい」

共助の一団と子供の一行はそれぞれの使命を果たし、故郷「日ノ本の国」へ帰還した。

(次回第8話完結)

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子犬に子猫に人間の赤ちゃんに「子」には純粋な可愛らしさがある。「子」のピュアさは多くの場合、成長とともに次第に消えていく。子猫の時は甘えん坊で懐いていたのに、野良猫として成猫すると、近づこうものなら警戒して険しい表情になる。子供のジャオも逆転して妖怪となったように。

それは生存競争の中で利己性を発揮し、自助で生きなければならないからである。さらに他の個体も自分と同じ利己的な存在とみなすので、全てが敵になる。警戒するのは当然だろう。

子の純粋な可愛らしさを無邪氣というが、無邪氣は共助の世界では「聖なるエネルギー」である。周りが助けよう、サポートしようと自然に動くからである。無邪氣は、共助を促すエネルギー源といっていいだろう。

その聖なるエネルギーを象徴化したものが、三種の神器の一つ八尺瓊勾玉(ヤサカニノマガタマ)である。その形は「胎児」そのもの。ちなみに、魚類、両生類、爬虫類、哺乳類の胎児は皆よく似ている。(参考:浜島書店生物図表https://bit.ly/3ya1bSQ

子供と無邪氣に遊んだ良寛和尚(1758-1831)。寺を構えず、粗末な草庵にすみ、生涯無一物で74歳まで生きた曹洞宗の僧侶。素朴で美しい書を書かれたことでも知られている。かの北大路魯山人は、良寛和尚の書をこう評している。「良寛様の書は質からいっても、実に稀にみるすばらしい良質の美書であって、珍しくも、正しい嘘のない姿である」。

命のスタートは嘘のない純粋な可愛らしさ。無邪氣に戻ることは、命に戻ること。命とは本来「共助」なのである。

 

 

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著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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