今週は。
開催に向けていまだ迷走中の東京オリンピック2020+1。もはや進行そのものがお笑い大劇場ではないかと思ってしまうほどであるが、さすがに「ぼったくり男爵」の登場には笑ってしまった。
ご存知ワシントン・ポスト紙が、国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長を称したものであるが、元の英語は-Baron Von Ripper-off―。直訳すれば「追い剥ぎ男爵」のところを「ぼったくり」と訳したネーミングセンスの持ち主に、当ブログより座布団二枚を差し上げたい。
と、こんなことを、先日、翻訳をナリワイにしている家内と話していたところ、いつのまにか話題が柳瀬尚紀さんのことになった。
柳瀬尚紀(1943-2016)、英文学者であり翻訳家。語呂合わせや造語などを使った独自の翻訳で知られ、ボルヘスやエリカ・ジョング、ルイス・キャロルなどを訳した。なかでもジェイムズ・ジョイスの遺作『フィネガンズ・ウェイク』の単独日本語訳は、出版界、翻訳者の間で大きな話題となった。
同書は、英語圏の読者でも理解不能な超難解な小説として知られる。原書でさえ理解不能な小説を、さらに技巧を駆使して日本語にするという、ボクなどには想像もつかない離れ業である。なにせ1ページからしてこれである。もうわけがわからない。
無類の猫好きで軽妙洒脱なエッセイの書き手でもあった柳瀬さんは、家内が翻訳の道へ進むきっかけをくれた大学時代の恩師でもある。とてもシャイな人とのことで、生前お会いすることは叶わなかったが、語呂合わせや言葉遊びが大好きだった柳瀬さんのこと。「ぼったくり男爵」の話題を聞いて、きっと笑っているのではないだろうか。