第126回 孤立化していく日本

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第126回「孤立化していく日本」


安田

夕張メロンのニュース見ました?

久野

海外実習生の話ですよね。

安田

はい。コロナで海外から入ってこれなくて。メロンの作付けができない。

久野

実習生頼みはキツいですよ。

安田

そうなんです。ネットにも「安い実習生頼みで、ビジネスとして成り立ってないだろう」って散々書かれてました。

久野

これは夕張メロンだけの問題じゃないんです。日本全体で考えなきゃいけなくて。中小の製造業も外国人だから安く使っていいと思い込んでる。

安田

日本全体が海外実習生に頼ってるってことですか。

久野

はい。しかもほとんど最低賃金で働かせてます。

安田

ひどいですね。

久野

実習生って3年間辞めないじゃないですか。

安田

辞められないというほうが正しいですけど。

久野

はい。そこでビジネスを成り立たせようとしている。

安田

「夕張メロンをなんとか助けなきゃ」っていう記事だったんですけど。ネットの反応は「ふざけんな」って感じでした。

久野

ネット民のほうがまともだと思います。

安田

日本のイメージが悪くなるし。それによって日本人の給料も下がるし。

久野

とはいえ日本人も安いメロンを食べてるわけですから。基本的にそこを真剣に考えなきゃいけない。

安田

確かに。消費者は安いものばかり求めてますよね。

久野

それが根本的な問題です。

安田

経営者は安く売るしかないと。

久野

いえ。経営者はもっと高く売る努力をするべきですね。

安田

そういう経営者は海外実習生にもちゃんと給料払ってそう。

久野

経営者のスタンスは二極化してまして。8割は安い労働力だとしか思ってない。

安田

8割も?

久野

安く使えて辞めない人たちだと。ただ結果としては安くないんですよ。

安田

どういう意味ですか。

久野

残業代や社会保険も払わなきゃいけないので。当たり前じゃないですか。

安田

もしかして、そこも踏み倒す計算で雇ってる?

久野

「ベトナム人同士のコミュニティーに所属してはいけない」という社内ルールをつくってる会社もあります。

安田

それはなぜ?

久野

よその状況がわかると逃げちゃうから。

安田

ひどすぎますね。「自分の国で働くよりはましだろ」と思ってるんでしょうね。

久野

その発想自体が古いですけど。

安田

古いですか。

久野

いまだに中小企業の経営者は「ベトナム人は日本が好きだ」と思ってる。

安田

親日のイメージですよね。ベトナムは。

久野

今は韓国の方がちゃんとお金を出してくれるんです。だから、できれば韓国に行きたいんだけど「あ、日本になっちゃった」みたいな。そういう感じです。

安田

悲しくなりますね。

久野

中国人がよく言いますけど。「稼ぎたかったら外資系。そこそこの暮らしがしたかったら中国企業。で、楽がしたかったら日本企業に就職する」と。

安田

日本企業って楽なんですか?

久野

その代わり給料が安いよっていうのが、中国人にとっての日本企業のイメージ。

安田

へえ。日本のビジネスマンってそう見られてるんですね。

久野

なのに昔の感覚と全く変わってない。海外がもう追いついてきちゃってることを日本人は知らなすぎ。

安田

いずれは実習生も来なくなりますか?

久野

普通に考えたらそうなりますよ。実習生って勉強させてもらえると思うじゃないですか。

安田

そりゃ思いますよね。

久野

実際は現場で作業させてるだけですからね。

安田

しかも給料が安いと。

久野

研修なんてはじめの1週間ぐらいで。残りはずっと同じ作業をやらされるだけ。

安田

詐欺みたいなもんですね。

久野

本国で借金して来るから。強制労働に近いところはあると思います。

安田

これは実習生という制度自体の問題ですか?

久野

いえ。まともな経営者もいますから。価値ある職業体験を積ませて、本国に戻ったときに独立できるように、その国が活性化するようにって考えてる。

安田

私の知り合いにもそういう経営者がいますよ。すごくいい会社で。

久野

だけどすごく少ない。だから定期的にいなくなっちゃう。

安田

脱走するらしいですね。今すごく問題になってます。

久野

だから同郷のコミュニティーに入るなって言うんですよ。外の事情がわかると逃げちゃうから。

安田

本末転倒もいいところですね。

久野

まともな経営者もいるんですけど少なすぎます。

安田

まともな人は2割しかいないと。

久野

2割もいるかって感じですけど。

安田

増える傾向はないんですか。

久野

ないです。ほとんどの人は「まだまだ日本は強くて、実習生が来なくなるなんてことはない」と思ってる。

安田

ずっとこの状態が続くと思ってる?

久野

思ってますね。

安田

日本人が採用できなくても「外国人にやらせるからいいよ」っていう。

久野

日本人がやりたがらない仕事なんて外国人もやらない。外国人をばかにするなって思います。

安田

もう生産性では韓国に抜かれてますもんね。

久野

あっという間に他の東南アジアの国々にも抜かれますよ。

安田

このままではどんどん落ちていきますね。

久野

日本ってすごく同質化を求めるので。そもそも外国人が働きやすい環境ではないんですよ。

安田

なるほど。これは夕張どころの話じゃないですね。

久野

はい。だけど経営者がそこを認識してない。

安田

実習生と言いながら騙して現場でこき使ってたり。

久野

国際的な人権問題にもなりつつあります。

安田

いま世界は人種差別にすごく厳しいですからね。

久野

そうなんですよ。「日本の奴隷制度」というテーマで、外国人実習生のドキュメンタリーをCNNがつくってます。

安田

今後さらに世界で叩かれる可能性がありますね。

久野

実はもうかなり叩かれてるんです。国内のニュースで上がってこないだけ。

安田

末期的ですね。

この対談の他の記事を見る



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

感想・著者への質問はこちらから