第77回「正社員になりたいのは誰?」

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第77回「正社員になりたいのは誰?

 


安田

テレワークが主流になっていくことは確かですよね。

久野
はい。その流れだと思います。
安田
そもそも満員電車に乗って通勤するとか、部長や課長が見てる前で仕事しないといけないとか。ムダでしかない。
久野
仕事ができる人ほどそう感じるでしょうね。
安田

そのことに気付いちゃったと思うんですよ。これを機に家で副業を始めた人もいるでしょうし。

久野
いると思います。やってみたら稼げちゃったとか。
安田
そういう人って、これを機に一気にフリーランスや副業に流れそう。
久野
優秀な人はそうなってくるんじゃないですか。テレワークだとすべての行動は管理できないし。
安田
時間で管理するというのがもう無理なんですよ。1日8時間パソコンの前に座っとけとか言えないし。
久野
成果で測るしかなくなる。成果さえ出してくれたら「あと何やってもいいよ」って流れになるでしょう。
安田
パソコンの前に座ってる映像を送らなくちゃといけないとか。そんな会社からは人がどんどん抜けていくでしょうね。
久野
人によると思いますよ。
安田
そうですか?
久野
だってパソコンの前に座ってるだけで給料が振り込まれるわけでしょ。それを選ぶ人もいると思います。
安田
なるほど。じゃあ「使えない人が残り、使える人はフリーになる」という二極化ですね。
久野
両極に振れていくでしょうね。フルリモートになると業務委託の波は止められませんから
安田

会社としたら優秀な人は引き止めたいでしょう。だったら副業を容認せざるをえなくなると思うんですけど。

久野
そうなるでしょうね。
安田
で、優秀な人ほど副業での稼ぎが増えていく。
久野
ですね。
安田
すると本業のために満員電車には乗らなくなる。ムダな会議とかも出なくなる。
久野
それでいいんじゃないですか。ちゃんと仕事に対してお金を払う時代がくると思います。
安田
上司の顔色を見て仕事をしなくてもいいと。
久野
そもそもフルタイムでは雇えないと思いますよ。本当に優秀な人は。
安田
それはどうして?
久野
ちゃんと評価したらものすごい金額になってしまうので。必要なところだけ外注するようになるでしょう。
安田

これまでの常識だと正規雇用こそが素晴らしかったんですけど。非正規雇用は安い金額でこき使われるっていう。

久野
その常識は変わると思います。正規雇用の給料は必ず頭打ちになります。ずっと雇い続ける代わりに「年収は頭打ちになるよ」っていう。
安田
そうせざるを得ないですよね。同じ仕事をしてるだけで給料が上がっていくとか。それが異常だったわけで。
久野
頭打ちになる正規雇用と、保障はしないけど「いくらでも稼いで」っていう業務委託と。
安田
非正規のほうが正規より収入が上回る時代がやって来る。それはワクワクしますね。
久野
少数ではありますが、めちゃめちゃ稼ぐ社員も残ると思います。
安田
めちゃめちゃ稼ぐ社員って、久野さんのイメージではどれぐらいの年収ですか?
久野
2000万とか3000万とか。その代わり「うちだけにいて」っていう。
安田
2000~3000万払っても安いってことは、たぶん億単位の利益貢献をする人ですよ。
久野
そうでしょうね。
安田

でも、そういう人って自分で分かると思うんですよ。「俺の利益貢献はこんな程度じゃない」って。

久野
分かるでしょうね。
安田
たとえば大企業は「年収1000万を超える人」をかたっぱしから切ろうとしてます。
久野
すごいコストをかけてリストラしてますよ。
安田

はい。それでも切りたいほど赤字が大きい。一方で年収300〜400万の人って、それなりに黒字らしいんですよ。

久野
分かります。多くの会社はそこの利益でもってますから。
安田
そうなんですよ。赤字なのは上の層であって下のほうは黒字。安い給料で言った通りに仕事してくれれば利益は出せる。
久野

逆にそこで利益が出ないと本当きついですもん。会社としては。

安田

決めたことを決めた通りにやってくれれば利益が出せる。マスク1枚500円では売れないけど、1枚20円だったら買い続ける人もいるわけで。

久野
それが組織の戦略ですね。
安田
一方で、ゼロから新しい価値なり商品なりを生み出せる人って、組織で囲い込むのにはやっぱり無理がある。
久野
組織が好きだという人も一定数いますけどね。
安田
でも組織の大多数は「言われた通りに仕事をする人たち」でしょ?
久野

そうなります。

安田

そうなると正規雇用の値段って下がってきませんか。もちろん収入の高い正社員も一部は残ると思う。でも正社員全体でいけば圧倒的に下がっていく気がする。

久野
そうですね。稼ぐフリーランスのほうが増えていくでしょうね。そこは間違いないと思います。
安田
定期昇給は残ると思いますか。何かで評価されて上がるのはあると思うんですけど。無条件に何月何日になったら上がるという制度って続くと思います?
久野
現実的には続けられないけど、続けるように強要されてますからね。
安田
それを続けようとすると、利益貢献度の高い社員の報酬を減らすしかない。
久野
ただ日本人って、本当に切羽詰まらないとやれない人種なので。
安田
まあ国民はやめませんけど。社員だったら辞めちゃいますよ。
久野
その可能性はありますね。とくに優秀な若手の子って、早めに別の道で稼いじゃうことを選択するかもしれない。
安田
そうなりますよね。
久野
はい。可能性は高いです。
安田
それでも、やっぱり自分では稼げない人もいるわけじゃないですか。なにしろ「言われた通りやる」っていう価値観で育ってますので。
久野

そういう人は社員として残るでしょうね。とくにコロナでなおさら強固になった人もいます。

安田
派遣のほうが向いてそうですけど。派遣の最低賃金も上がりましたし。決められた時間に言われたことだけやって。
久野
いや。安定志向の人はやっぱり正社員ですよ。
安田
たとえ給料が安くても?
久野
そう思います。
安田
そこを割り切ってくれるなら、正社員を雇うのもありだと思います。「欲しがりません正社員なら」みたいな人。
久野
それも極端ですね(笑)
安田

それぐらいじゃなきゃ正社員を雇うメリットがないですよ。というかリスクが大きすぎ。

久野
そうなんですよね。ただ社会の仕組みがそれを許さない。いまだに正社員は終身雇用で定期昇給が当たり前なので。
安田
まだまだ国民の多くが正社員を望んでるんでしょうね。


久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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