第50回「サウジの観光産業は開国によってどう変わったのですか?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
「サウジの観光産業は開国によってどう変わったのですか?」

   回答   

前回は、目覚ましい変化を遂げているサウジアラビアの観光産業について、入国への第一関門でもあるビザ取得がいかに難しかったかについてお伝えしました。今回は、それがどう変わったのか、そしてサウジアラビアの観光産業にどんな変化が起こっているのかについて書いてみたいと思います。

【敷居が低くなったビザ】
書類や写真の審査基準が妙だったり、申請費用が異様に高かったり、田町のビザセンターまで出向かなければならなかったりと、来るもの拒む取得難度を誇ったサウジビザ。
2019年の観光ビザの解禁後はどうなったのでしょうか。
今はスマホからオンライン申請が可能で即日発給、金額も15,000円程度で済みます。
このように、一文で説明が済んでしまうほど簡略化されました。
将来的には、さらなる低価格化も噂されています。

【一気にポテンシャル開放、か?】
ただ、ビザの解禁だけでは不十分です。
長らく鎖国状態にあったサウジアラビアは外国人観光客を迎え入れる準備が遅れていましたが、2021年12月に私が渡航した際には「観光客の受け入れ態勢が整ってきている」という印象を持ちました。

この2年間で何が変わったのか?
いくつか挙げてみましょう。

●女性のドレスコード撤廃
まずとりあげたいのは、女性の服装に対する規制が大幅に緩和されたことです。
外出の際に着用が義務付けられていたアバヤ(黒衣)とヒジャブ(髪を覆うベール)を、着用しなくてもOKに。つまり、肌の過度な露出を避ければ我々が普段着ているような服装で外出することも可能です。

(↑ジェッダで開催されたフォーミュラ1の観客席にて。ところどころ全身黒の女性が見えるが、観光客は普段着)

●言葉の壁が低くなった
観光スポットに、英語でスムーズに会話ができるよう訓練されたスタッフが増えています。
以前は、アラビア語しか話さず英語の通じないスタッフに出会う機会も多かったのですが、いまではほぼ英語が通じる様になっています。スタッフはみな親切で、女性の割合が驚くほど増えました。


(↑丁寧な対応をしてくれた現地女性のスタッフ)

●観光資源の開放
あまり知られていませんが、サウジアラビアには世界遺産が6つあります(2021年時点)。
それ以外にも、王国発祥の地『マスマク城』、その名に違わぬ絶壁の崖『世界の果て』、幅4kmの巨大なくぼみ『アル・ワバ・クレーター』、芸術と歴史の詰まった美しい村『リジャル・アルマー』といった名所から、紅海沿いの美しい海岸線、世界一高い噴き上げを誇る『ファハド王の噴水』など、実は観光資源がかなり多いのです。

これまでは対外的な宣伝が少なく、存在すら知られていませんでしたが、今は政府観光局が充実したサイトを用意しています。

(↑観光局公式サイト。日本語ページが用意されており、ビザもここから申請できる。https://www.visitsaudi.com/ja/

【“All Religion Welcome”】
「宗教に関係なくサウジに遊びに来てほしい」。
私の友人でビジネスパートナーでもあるサウジ人の言葉です。彼は日本が大好きで、「特に日本人に来てほしい」と言っていました。

サウジアラビアは、日本人にとって距離的にも文化的にも遠い国なので、現地で目にするものすべてが興味深く映ると思います。
もともと治安が抜群に良く、人々のホスピタリティも高い国。そこに上記の快適さが加わり、今や気軽に行ける国へと変化を遂げました。
一週間程度の旅行であればフライトとホテル代で通常20~30万円程度から可能ですし、ひとことで言えばメチャクチャ面白い国なので、コロナ明けに海外旅行を考えている方には渡航先の候補としてオススメします。

今回は急速に整いつつある観光インフラについてご紹介しました。これまで閉ざされていた分、観光産業の伸びしろは非常に大きいと思います。
ちなみに、サウジ政府は観光産業だけでなく、それに深く関係するエンタメ産業にも尋常ならざる注力をしています。これについては、またの機会にお伝えします。
シュクラン、マッサラーマ。(ありがとうございます、ではまた。)

 

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 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ) 

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながら中東ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。

海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

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