第49回「アラブといえば石油のイメージですが、それ以外にも産業はあるのですか?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
「アラブといえば石油のイメージですが、それ以外にも産業はあるのですか?」

   回答   

あります。多分野で成長しており、特に最近いくつかの分野で目覚ましい変化が見られます。そのうちの一つが観光産業です。
ドバイは今や国際観光都市として確固たる地位を築き上げていますが、今後最もアツくなるのはサウジアラビアかもしれないと、昨年の訪問で感じました。
今回は、サウジアラビアの変化についてお届けする前に、これまでサウジへ渡航すること自体が簡単ではなかった件についてお話します。

【観光させる気がなかった?】
サウジアラビアと観光。この2つの言葉が結びつかない人も多いかもしれません。
それもそのはず。サウジアラビアが観光ビザを解禁したのは2019年であり、まだ3年も経っていないからです。
それまでは、一般人で渡航するのは聖地巡礼に向かうイスラム教徒か、私のようにビジネス目的で行く人間くらいでした。
しかもビザ取得のハードルは高く、何度心が折れそうになったかわかりません。
いくつか例を挙げてみます。

【高いコスト、不安定な審査】
まず、提出書類や提出写真への規定がやけに細かく、その割に審査基準が曖昧だったりします。
たとえば、写真は顔が全体の7〜8割を占めるものが推奨されていました。
これに従うなら、顔面が激しくクローズアップされた写真が出来上がりますが、条件なので仕方ないとほぼ顔面の写真を提出したところ、「顔が鮮明でない」という理由で撮り直しをさせられました。
後日、「普通の証明写真でも大丈夫なのでは?」と、顔面比率が5割程度の写真を送ったところ、難なくパス。聞いてたんと違う。
担当官がその日の気分でなんとなく審査していた可能性があります。

書類審査だけでなく、指紋や虹彩の生体認証も受けなければなりません。
そのために田町のビザセンターに本人が行く必要があるのですが、この機械が頻繁に「落ちる」のです。
東京へ新幹線で向かう途中、「機械に不具合が出ました。今日は認証不能なので後日再訪してください」というメールが来て、往復の新幹線代がパアになったことも数回ありました。

また、シンプルに申請費用が高く、かつ一定ではありませんでした。
2万円程度で申請できた時期もあれば、10万円を超えたことも。領事が変わるときに金額変更されていたような記憶がありますが、なぜこんなにも振れ幅が大きかったのかは不明です。
その上、たとえ要件をすべて満たしていても、なぜか審査に落ちることもありました。この場合、申請費用の返金はありません。

【鎖国から一転、オープンな国へ】
このように、「外国人の渡航を拒んでいるのではないか」と疑ってしまうほどの手間とコストが、申請するたびにかかっていたのです。
世界最強と称される強いパスポートを持つ日本人にとっても、サウジアラビアは「ビザを取るのが最も難しい」と言われるほどの国でした。
つい最近まで、サウジは鎖国状態にあったと言ってもよいでしょう。観光産業なんて育つわけがなかったのです。

そんなサウジがついに「開国」し、その観光産業に大きなポテンシャルを感じさせるまでになっています。
どう変わってきているのかについては、後編ということで次回書いてみたいと思います。
シュクラン、マッサラーマ(ありがとうございます、ではまた)。

 

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 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ) 

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながら中東ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。

海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

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