中東で見つける小さなブルーオーシャン第12回
「中東でも日本のアニメは流行ってますか?戒律に触れるシーンはどうするのですか?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
中東でも日本のアニメは流行ってますか?戒律に触れるシーンはどうするのですか?

流行っていますね。それも相当な人気です。
サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子も日本のアニメファンですし。
Marvel等のアメコミも若い世代を中心に人気がありますが、日本のアニメは不動の地位を確立しているように思います。

アニメについてはお話しできることが沢山ありますが、今回は問いに対する回答に絞っていくつかご紹介できればと思います。

【現地で知られているアニメ】
かなり多いです。古いものは「UFOロボ・グレンダイザー」「アストロガンガー」「ベルサイユのばら」「未来少年コナン」「釣りキチ三平」「あしたのジョー」「宝島」、少し時代を下って「プラレス3四郎」「伊賀野カバ丸」「ちびまる子ちゃん」「キャプテン翼」、比較的新しいものでは「ワンピース」「ドラゴンボール」「スラムダンク」「名探偵コナン」「進撃の巨人」「東京喰種」「ワンパンマン」など、枚挙に暇がありません。
Otaku and Proudというサウジのポップカルチャー雑誌では、「この美術部には問題がある!」「食戟のソーマ」「アルスラーン戦記」「文豪ストレイドッグス」といった作品のキャラ人気投票が行われています。また、クウェート留学していた人からは、「戦姫絶唱シンフォギア」というアニメが現地で流行っていると聞きました。私は初めて耳にする作品名でしたが、このように現地からこのアニメ面白いよと教えてもらうこともあります。

(↑Otaku and Proudという名前の雑誌。アニメ好きの友人が寄稿している)

いまは「鬼滅の刃」「約束のネバーランド」「僕のヒーローアカデミア」「呪術廻戦」あたりがブームとなっています。過去には「一休さん」も放映されていました。仏教系アニメですが問題ないのでしょうか。

そもそも日本のアニメが人気が出た理由は、国によって事情が異なる部分もあると思いますが、私がサウジアラビアで聞いた話では「TVチャンネルがたった一つしかない時代、日本のアニメを放送する枠があった。娯楽が少ない時代だったので、老若男女問わずテレビに食い入るように見ていた。その時間帯は街から子供が消えていた」。

その娯楽性たるや凄まじかったようで、たとえば上に挙げた「UFOロボ・グレンダイザー」は、子供からおじいちゃんおばあちゃんまで誰に聞いても知っていると言っても過言ではないほど、人々に知られています。この作品についてはエピソードが多すぎるので割愛しますが、混乱期のイラクで国旗のデザインを作ろうというときに「グレンダイザーを入れてはどうか」というジョークが出るほどアラブ世界に影響を与えた、まさに伝説級のアニメです。

(↑サウジのカフェにて。何の脈絡もなく街中に登場するグレンダイザー像が違和感を放つ)

【戒律に触れるシーンは?】
ドバイで「デスノート」が好きだというファンに会ったことがあります。イスラム教はアッラー以外を認めない一神教なので、デスノートの人気があると聞いた時は非常に違和感がありました。なにせ死神が出てきますから。
デリケートな話題になってしまったらまずいなと思いつつも好奇心が抑えられず、「別の神様出てきてますけど」と勇気を出して聞いたところ、「いや、だってフィクションだし」という回答が返ってきました。

また、イスラム教では偶像崇拝も固く禁じられていますが、フィギュアは堂々と販売されているのです。
「フィギュアって人形ですよね。めちゃめちゃ偶像っぽくないですか」と聞いてみたところ、「ほら、だってフィクションだし。あとアッラーじゃないし」。
野暮なこと言ってんじゃねえよ、とでも言いたげな顔つきでした。

アニメならなんでも許されるのかというと、過去には問題になったケースもあります。有名なのはポケモンで、今や日本のアニメとして世界的な作品ですが、次のような理由で宗教界から禁止令が出ました。

・ポケモンにはギャンブル性がある
・ポケモンは進化するので、イスラム教が否定する進化論を肯定している。
・ポケモンカードの中には十字架や日本の神道のマーク、イスラエルの六芒星などが出てくる。多神教的側面を持っており、そしてユダヤ主義である証拠である。

また、「ピカチュウ」という音は「Pick a jew(ユダヤ人を選べ)」であり、やはりユダヤ主義であるという陰謀論まで出たようです。ちょっと言い掛かりのようにも思いますが、このように運悪く問題視されることもゼロではありません。

ポケモンはNGで、デスノートはOK。偶像はNGだが、フィギュアはOK。
問題ないだろうと思っているものが引っかかったり、逆に宗教的にマズいのではと思われるものでも不問となったりする。もちろん彼らなりの理由付けがあるのだと思いますが、ノンムスリムの私にとってこの境目を見分けるのは容易ではありません。

ただ、これまで多くのアニメが問題なく放映されていることを考えれば、実際の現場では「フィクションだからいいんじゃない?」と、ある程度柔軟に対応しているのではないかと思います。

余談ですが、2019年11月にサウジアラビアの首都リヤドにて日本のアニメイベント「サウジ・アニメエキスポ」が開催され、私も行ってきましたので写真をご紹介します。会場にはコスプレイヤー達もいました。

(↑ナルトとワンピースから。写っていないが女性コスプレイヤーも少なくなかった)

(↑コラボ豆しば)

(↑進撃の巨人の巨大バルーン)

(↑ゴールデンカムイ紹介コーナー)

(↑他にも多くの作品が紹介されていた)

これまでも日本のアニメのイベントは小規模ながら行われていましたが、政府主催の公式イベントとしては初です。
イベントには「アニソン界の帝王と大王」、水木一郎氏・ささきいさお氏を筆頭に、日本のアーティストも複数招聘されました。
国費で大規模なアニメのイベントをやるのですから、政府の本気度が伺えます。国策として脱石油を掲げ、これからエンターテインメント産業に力を注いでいく国ですから、日本のアニメがその政策の一角を担えば面白いなと思います。

 


 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ)

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながらイスラム圏ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。大阪在住。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

 

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