第19回「中東で一番人気のある仕事は何ですか?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
「中東で一番人気のある仕事は何ですか?」

個人的には、たぶん日本や他の国とそんなには変わらないのではないかと思います。
数人のティーンエイジャーと話した時に、彼らは「YouTuberになりたい」「サッカー選手になりたい」などと言っていましたので。

とはいえ、夢見るティーンエイジャーと実際に職探ししている人では人気の職種は違います。実態はどうなのでしょうか?

中東の、特に産油国は石油に依存した産業構造なので、他とは違った特徴があります。
産油国では、なんだかんだで公務員人気が高いです。
ざっくり理由を言ってしまえば、給与が高くて休みも豊富にあってストレスが少ないから、ということなのですが、以前政府系で働くある公務員の一日の生活シミュレーションを聞いたところ、次のような内容でした。

朝の7-8時から働き始める。多少遅刻しても、時間にはそれほどうるさくないので大丈夫。オフィスに着いたら、紅茶を淹れてデスクに向かって事務仕事。適度に休憩をはさみながら、昼1-2時くらいに終業。ランチに出かけて、後は自由時間。
勤務時間は6時間程度なので、そんなに疲れていない。税金もほとんどかからないから可処分所得が多い。午後の早い段階で仕事が終わるので時間がたくさんある。

あくまで一例ですが、書いていて羨ましくなってきます。
実際、産油国の国籍を持っている人々はその大半が公務員として働いており、たとえばサウジは自国民の約7割、クウェートでは約9割が国家公務員や国営企業の職に就いていると言われます。比率がスゴイですね。
官庁など政府系で働く国家公務員のみならず、航空会社や石油会社、銀行や医療機関なども国営が多く、そこで働く人々も給与や待遇面で恩恵にあずかっています。

このお金はどこから出ているのかと言えばもちろんオイルマネーですが、最近は以前ほどオイルマネーで余裕綽々というわけではないので、果たしてこのシステムをずっと続けていけるのか? という疑問の声も上がっています。公務員の高待遇を高いレベルでキープし続ければ、国の財政への負担はとんでもなく大きいものになるからです。

カタールやクウェートといった国土や人口がそれほど大きくない国は、まだこのシステムを続ける時間的余裕がありますが、サウジアラビアのような大きい国になると、比較的危機感が強いように思います。

現在、サウジアラビアは新しい産業を興して雇用を創り出すために「VISION 2030」という国策を進めています。これは民間部門での雇用創出が狙いの一つとしてあるように思います。サウジの失業率は低くないため、政府としては新たに働き口を作りたいところですが、高待遇の公務員はこれ以上増やしたくないのでしょう。

公務員が多いと言うと、「楽したいだけなのか?」と思われる方もいるかもしれませんが、あくまで産業構造からそのような実態になっているだけです。現地の私の知り合いは、政府機関で働く方もいますが、起業願望を持っている人も多いです。そこで日本と関わるビジネスがしたいという人がいれば、彼らに協力するというのが私の仕事です。

社会変革や規制緩和の時流に乗るため。
または単純にやりがいを見つけるため。
彼らもいろいろとキャリアプランを練っているのだと思います。

 

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 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ)

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながらイスラム圏ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。大阪在住。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

 

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