経営者のための映画講座 第36作『地獄の黙示録』

このコラムについて

経営者諸氏、近頃、映画を観ていますか?なになに、忙しくてそれどころじゃない?おやおや、それはいけませんね。ならば、おひとつ、コラムでも。挑戦と挫折、成功と失敗、希望と絶望、金とSEX、友情と裏切り…。映画のなかでいくたびも描かれ、ビジネスの世界にも通ずるテーマを取り上げてご紹介します。著者は、元経営者で、現在は芸術系専門学校にて映像クラスの講師をつとめる映画人。公開は、毎週木曜日21時。夜のひとときを、読むロードショーでお愉しみください。

『地獄の黙示録』という巨大コングロマリッド。

『地獄の黙示録』が公開されたのは1979年だった。撮影は17週の予定が61週に伸び、その後の編集にも約2年の時間がかかった。キャスティングのトラブル、撮影現場での行き違い、資金繰りの悪化など、考えられる困難が次々とコッポラ監督を襲い、完成は危ぶまれた。しかし、1979年、カンヌ映画祭に未完成のまま出品されると見事にパルム・ドールを獲得(『ブリキの太鼓』と同時受賞)した。

この映画の記録映画はコッポラの妻エレノアが監督しているが、撮影現場の常軌を逸した状況が見事に写し込まれている。役者のわがままに振り回され、銃を自らの頭に突き付けるコッポラ。死んだような目で働くスタッフたち。あちらでもこちらでもトラブルが頻発し、現場は膿んだような湿気た空気で満たされる。それはあたかも、様々なグループ会社が好き勝手な放漫経営を繰り返して、コングロマリッドの最高責任者が現場の状況を一切把握出来なくなっているかのようだ。

作品そのものにも同じような臭いが立ちこめる。映画は必ず現場を反映する。現場が膿めばフィルムも膿む。『ゴッド・ファーザー』の成功で地位と名誉を手に入れたコッポラが満を持して挑んだ『地獄の黙示録』は、あまりにも広く深い泥沼のような作品だったのかもしれない。

しかし、それはあたかもベトナム戦争を地で行くような体験となり、未完成のままカンヌ映画祭パルム・ドールを受賞した作品は、賛否両論のなか大ヒットし、いまではベトナム戦争を体現した重要な作品と位置づけられるようになった。

映画はウィラード大尉(マーティン・シーン)が、元グリーンベレー隊長であるカーツ(マーロン・ブランド)暗殺指令を受けるところから始まる。カーツは優秀な軍人だったが、ジャングルのなかで常軌を逸し、自らの王国を築いているというのだ。カーツはすでに狂っているのか、それとも周囲のほうが狂っているのか、ウィラード自身も次第に心のバランスを崩しながら川を上り、ゆっくりとカーツの王国へと近づいていく。

まるで、大きくなりすぎた財閥系企業を切り崩すために、頭脳明晰で野心溢れる人材が本部に送り込まれるかのようなシチュエーションだ。組織が大きくなればなるほど、そう簡単には切り崩せない。ただ、経営の下手なトップがいるだけなら話は早いが、そんな人物ほど経営以外のことがうまい。人心を掌握して意のままに操るくせに私利私欲のために本筋を曲げようとする。そんな人物と向き合うためには、相手の心を読む必要がある。

そんなとき、ミイラ取りがミイラになる恐怖が立ちこめるのだ。そんなことを心の片隅に思い浮かべてしまうと、この映画のラストシーンがあまりにも恐ろしいものに感じられる。

著者について

植松 眞人(うえまつ まさと)
兵庫県生まれ。
大阪の映画学校で高林陽一、としおかたかおに師事。
宝塚、京都の撮影所で助監督を数年間。
25歳で広告の世界へ入り、広告制作会社勤務を経て、自ら広告・映像制作会社設立。25年以上に渡って経営に携わる。現在は母校ビジュアルアーツ専門学校で講師。映画監督、CMディレクターなど、多くの映像クリエーターを世に送り出す。
なら国際映画祭・学生部門『NARA-wave』選考委員。

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