第33回「中東の人から見て日本は豊かな国なのでしょうか?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
「中東の人から見て日本は豊かな国なのでしょうか?」

   回答   

豊かさですか。どうなんでしょうね?
個人の経験から言えば、少なくとも私が今まで話した中東の人々の中には「日本は豊かではない」と言う人はいませんでした(日本人である私の前では思っていても言わないでしょうが)。

【豊かさの種類別考察】

中東と言っても、産油国と非産油国とでは財政状況に大きな隔たりがあるので、ここでは「中東」と聞いてイメージすることの多いであろう産油国に限定して考察してみます。

「豊かさ」と一口に言っても、いろいろな種類があると思います。
経済的な豊かさもあれば、文化的な豊かさもありますし、時間的な豊かさもあるでしょう。

経済的な意味では産油国のほうが豊かだと思います。平均月収は日本よりも高いですし、所得税がありませんので、可処分所得はあちらが上です。
また、日本では国民に相応の負担が求められる医療や教育についても、産油国では基本的に無償であり、その部分だけを比較しても、産油国の社会福祉は日本より豊かだと言えると思います。

現地の人々の声はどうなのでしょうか?
『Arab News』 と『YouGov』が共同で18のアラブ諸国の3,000人を対象におこなった「日本の印象は?」というアンケートによれば、

●1位が「働きすぎ」(61%)、2位が「組織的である」(54%)、3位が「時間通りに物事が進む」(42%)という結果
●日本人の印象を語る際に「丁寧」「礼儀正しい」「クリエイティブ」というポジティブな言葉が共通して使われた。一方、「失礼な」「怠惰な」「怒りっぽい」といったネガティブな言葉はほとんど出なかった
●これらの印象の元となっているのは、メディアの情報や日本のアニメ、車や家電などの日本製品である。
https://www.arabnews.jp/en/business/article_2558/  より筆者要約)

日本人は働きすぎだと思われているようです。
たしかに、中東地域で最もビジネスが忙しそうなドバイでも、働いている人はそれほどあくせくしておらず、東京や大阪などの日本の都市部と比較するとかなりのんびりした空気を感じます(金融業界の知人はめちゃめちゃ忙しそうにしていましたが)。

以前、あるサウジ人から「なんで日本人って走ってる人が多いの?」と聞かれたことがあります。私は「約束の時間に間に合わないから走ってる」と答えましたが、これは「時間通りに物事が進む」ということに関連があるように思います。
たしかに私が訪れた中東の国では、ジョギングを除き、走っている人をあまり見かけませんでした。走る必要がないほど物事がスムーズに進んでいる、というわけではありません。間に合わなくても走らないだけです。
こういった「のんびりさ」は物事の進むペースにも反映されます。もちろん仕事も例外ではありません。ただ、時間に縛られていないという点においては豊かさを感じます。


(↑日本はアラブからどう見えているのか?誤解もありますが面白いので見てみてください。2分弱です)

【日本のどんなところが豊かなのか?】

ここまでを振り返ってみると、「経済・社会福祉・時間の観点からは、中東(産油国)のほうが豊かさを感じる」という内容になりました。
そんな彼らが日本に対して豊かさを感じているのだとすれば、一体何についてなのか?
あえて言語化するならば、「高品質なものを生み出す技術力や、それを育んでいる土壌や文化に対して」だと思います。

中東地域で日本のアニメが受け入れられている一因は、物語がユニークで、そのクオリティが圧倒的に高いからだと思います。そして、それを生み出す日本人の感性には、日本文化の特徴である「繊細さ」や「丁寧さ」と言った品質へのこだわりが大きく関わっているはずです。
なので、日本の製品や創作物が高評価を受けていると聞くとき、私はそれを生み出した日本人の感性、ひいてはそれを育む日本文化への評価だと受け取っています。

日本製品は、コモディティ(=汎用品)分野での競争力は下がりつつあるものの、「Made In Japan」であること自体が一種の「ブランド」として捉えられる傾向にあります。
「日本からきた製品なら、とりあえず話くらいは聞こうか」と考える人は少なからずいますので、無名のブランドでも他国製品に比べるとアドバンテージがあると言えるでしょう。

新しい販路を求めているが無名だからと諦めている方は、海外向けの相談窓口や私のような貿易業者を通じて、可能性だけでも探ってみる価値はあると思います。

 

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 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ) 

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながらイスラム圏ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。大阪在住。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

 

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