第41回「サウジアラビアは中東の中でも特別視されているのですか?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
「サウジアラビアは中東の中でも特別視されているのですか?」

   回答   

世界の国々はそれぞれ独自の特徴を持っているので、どの国も特別だと言いたいところですが、たしかにサウジアラビアは中東地域において特殊だと思います。
今回は、私見でその理由を3つほど、例を挙げながら紹介したいと思います。

【二大聖地の存在】

一つ目は、メッカとメディナというイスラム教の二大聖地がサウジアラビアに存在することです。
メッカが聖地であることは広く知られています。ここにはカアバ聖殿や、聖モスク『ハラーム・モスク』があります。
また、メッカと同じく、メディナという都市もイスラム教にとって重要な聖地です。
ここは預言者ムハンマドがメッカから移り住み、居住し、亡くなった土地であり、『預言者のモスク』や世界初のモスクと言われる『クバー・モスク』がある都市でもあります。
メッカの『ハラーム・モスク』、メディナの『預言者のモスク』は二聖モスクと呼ばれ、サウジアラビア国王は『二聖モスクの守護者』とも称されます。
これは過去にこの地域を統治していたエジプト王朝やオスマン帝国の君主も用いていた、栄誉ある称号です。
現在、これらの聖地を抱えるサウジアラビアはイスラム教の総本山であると言えます。

(↑二聖モスク。左がハラーム・モスク、右が預言者のモスク)

【規模が大きい】

二つ目として、シンプルに国の規模が大きいことが挙げられます。
国土面積を見てみると、中東地域にはトルコ(78万平方km)、エジプト(100万平方km)、イラン(164万平方km)といった大国がありますが、その中でもサウジアラビアは214万平方kmと最大級で、これは日本の約6倍にあたります。
面積だけでなく経済規模も大きく、2019年の名目GDPは約7900億ドルです(2位のトルコは約7600億ドル、3位イランは約5800億ドル)。
人口は約3500万人と、一億人超えのエジプトや8000万人を抱えるトルコ、イランには及ばないものの、オイルで潤う湾岸産油国の中では最大です。
さらに、OPECの筆頭ポジションを務め、アラブで唯一のG20加盟国でもあります。

また、サウジアラビアには世界中からイスラム教徒が巡礼に訪れますが、その規模の大きさも注目に値します。
コロナ禍は例外として、通常時、聖地巡礼の目的で入国する人々は年間1000万人に達します。
巡礼に訪れた人々は聖地のホテルに宿泊し、観光し、お土産を買うことでお金を落としていきます。
巡礼は宗教的な観点から語られることが多いですが、経済的観点から見れば大規模なインバウンドが毎年約束されているとも言えます。

【社会が激変中である】

三つ目は、社会が急激な変化の真っ最中にあることです。
宗教的に厳格と言われるサウジアラビアでは、これまで他の国には見られない独特な規制がいくつもありました。たとえば、

・女性は自動車を運転してはならない
・レストランなどでは男女を分離しなければならない
・礼拝時間は店舗営業してはならない

といった禁則事項がありましたが、上から順に2018年、2019年、2020年に撤廃されました。どれも「伝統」と言って差し支えないほど長く続いていた社会慣習ですが、ここ数年で次々と消えています。
また他に、「映画館が解禁される」「女性の黒衣着用の義務がなくなる」「長らく発給されていなかった観光ビザが出される」など、様々な面において規制が緩和されており、驚くほどのスピードで社会が変わってきています。
くだけて言えば「サウジって最近、めちゃめちゃ今っぽくなってきてんね」という感じなのです。


(↑2018年4月、実に40年ぶりに映画館が解禁された時の様子)

【三行まとめ】

ということで、乱暴を承知の上で現在のサウジアラビアを三行で表すとするなら、次のようになります。

・サウジアラビアはイスラム教の総本山である
・サウジアラビアは規模の大きい国である
・サウジアラビアは急速な社会変革の真っ最中である

ただ、不思議に思いませんか?
サウジアラビアは、保守的な国であると言われます。
聖地を抱えており、イスラム教国の代表としての顔もあるので、保守的にならざるを得ないと思いますし、実際そのとおりです。
なのに、急激に変化している。
なぜか?

ここで思いつくキーワードは「石油収入の不安定化」です。
いま、石油は様々な要因から価格が不安定になっています。
湾岸産油国は国民の大多数を石油収入で養っているので、その石油収入が不安定になれば国民の生活維持が大変になります。サウジアラビアのように国の規模が大きければ尚のこと。
二大聖地を擁するイスラムの盟主として厳格さを求められる一方、時代の流れに合わせて変えられる部分は変えていかねばならない。
いま、サウジアラビアにはそのような柔軟性が求められているのではないかと思います。

宗教的にも経済的にも中東のリーダーを目指す国。
保守とチャレンジが同居する国。
面白い国だと思いませんか。

 

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 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ) 

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながら中東ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。

海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

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