中東で見つける小さなブルーオーシャン
第10回「ラーメン屋や鉄板焼き屋はドバイとサウジアラビアのどちらでウケますか?」

日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。

  質問  
ラーメン屋や鉄板焼き屋はドバイとサウジアラビアのどちらでウケますか?

日本で食べられるクオリティを現地で出すことができれば、両方ともウケそうですね。
ドバイもサウジアラビアも食文化は似ているので、反応にそれほど大きな差はないと思われます。

現地に出店するには食のタブーへの配慮が必要となります。具体的には豚とアルコールの要素を抜くことですが、それで味のクオリティを維持できるかどうかが課題の一つといえそうです。ただ、鉄板焼きとラーメンでは難易度が違うように思います。

【鉄板焼き】

鉄板焼きから豚を抜くのは問題ないでしょう。ドバイにもサウジアラビアにも日本式の鉄板焼き店が既にあります。肉を焼いて食べるのは万国共通、普遍的なスタイルですね。下の写真はサウジのステーキハウスに行った時に撮ったものです。

(↑岩塩プレートで焼いたステーキ。肉も柔らかく普通に美味しかった)

メニューには和牛もありました。

ちなみにアラブには伝統的な羊肉の石焼き料理があります。羊肉特有のクサみもなく、本当に美味しいです。味付けも日本人好みだと思います。

(↑カブサというご飯とともに。写真の映え要素は少ないが、肉もご飯もめちゃくちゃ美味い。手で食べるのが現地スタイル)

鉄板焼きのローカライズにはあまり大きな問題はなさそうです。

【ラーメン】

一方、ラーメンはどうなのでしょう。専門家ではないので詳しくわかりませんが、豚というのはラーメン作り、特にスープ作りにおいて相当いい仕事をしているのではないでしょうか。その大きな力学を抜いて味のクオリティを保てるのか疑問が残りますが、鶏白湯系のスープならそのまま持っていけそうですね。

現在は増えているかもしれませんが、数年前はラーメン店の数はそれほど多くなかったように思います。

以前ドバイで “Shiitake Soy-Sauce Ramen”(椎茸醤油ラーメン)を食べたとき、スープは醤油をお湯で溶いたような感じで、おそらく調味料は入っていましたが、お世辞にも美味しいとは言えないものでした。スープだけでなく、エノキ茸が生のまま添えられていたこともショックを受けるには十分でした。スープで加熱して完成、というトリッキーなレシピなのかもしれませんが、それにしてはスープがぬるい。またエノキには劣りますが、しめじと人参にもほんのり生感が残っていました。美味しいラーメンを食べたいと思って探したわけでもなく、その辺にあった店に適当に入ったので、私の店選びに問題があった可能性があります。

(↑ドバイで食べたSSSR(椎茸醤油ラーメン)。非加熱エノキの食感を楽しめる)

個人的には豚骨が好きだけど中東では難しいだろうなと思っていると、なんとイスラエルのテルアビブに豚骨ラーメンの店が存在するという記事を見つけました。
https://www.asahi.com/articles/ASK1P2JXDK1PUHBI026.html
(2017年1月23日朝日新聞デジタルより)

イスラエルはユダヤ教徒が多数派で、ユダヤ教徒の食にも多くの制限があり、イスラム教と同じく豚も禁じられています。そんな場所に出店するのは暴挙のように思えますが、記事にもある通りテルアビブは開放的な街で、その中でも宗教的な規制を嫌う世俗派の人々が食べに来るとのこと。しかもそこそこ人気がありそうです。

この記事を読んで、「豚骨ラーメン店をイスラム教圏に出すとどうなるのだろうか」と考えたのは私だけではないでしょう。記事を見るまではまず無理だろうと思っていましたが、ノンムスリム向けに豚肉製品を売っているドバイであれば、もしかすると可能性はゼロではないかもしれません。豚を持ち込む危険思想を持っていると見なされ、過激派扱いされる可能性もゼロではありませんが。
どちらにしても、そんなことを考える人は極端に少ないでしょうから上手くいけばまさにブルーオーシャンとなるかもしれませんね。

 


 この記事を書いた人  

大西 啓介(おおにし けいすけ)

大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながらイスラム圏ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。大阪在住。

写真はサウジアラビアのカフェにて。

 

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