第208回「優秀の定義を見直そう」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第207回「タクシーは2強の時代へ」

 第208回「優秀の定義を見直そう」 


安田

社内ニート?

石塚

今すごく多いんですよ。50代、仕事ができない、働かないおじさん。

安田

それに若者がモヤモヤしていると。

石塚

だって働かないのに1,000万近い年収を取ってるわけですから。

安田

それって大企業の話ですよね。

石塚

働かないおじさんの給料が高いのは中小企業も同じです。

安田

中小企業にもいますか!?

石塚

います、います。1,000万はいかないけど若者に比べたら高い。しかも働かない。

安田

それは「昔がんばったから」ってことですか。

石塚

年功序列給与だからでしょ。

安田

中小企業がそれでやっていけるとは思えませんけど。

石塚

もうもたないですね。若い子も辞めちゃうし。

安田

「自分もこのまま年功序列で」とはならないですか。

石塚

ならないでしょ。このままいたら「自分も将来こうなってしまうのか」って。だから「違う会社に行こう」となるわけで。

安田

それでも働かないおじさんに給料を払い続けるわけですか。

石塚

それが日本の労働法制じゃないですか。上げたものは下げられないから。

安田

会社に余裕があるわけじゃないけど、変えられないってことですか。

石塚

そのしわ寄せは当然、現場で仕事をしている若者にいくわけですよ。

安田

制度自体を見直せばいいのに。

石塚

中小企業は難しいでしょう。人事の専任者って、だいたい社員100人に1人って感じなので。多くの中小企業って100人に満たないじゃないですか。

安田

そうですね。

石塚

だから人事専任がいないんです。ぜんぶ兼任兼務で。

安田

総務部長が経理も含めて全部見てるイメージですよね。

石塚

そうなんです。本当は、いまの時代に合わせた能力と賃金の設定とか、20代の採用と育成とか、やらなくちゃいけないんですけど。

安田

難しいでしょうね。

石塚

だけど、そのリスクに気づいている中小経営者はほとんどいない。

安田

今のままだったら「若い子はみんな辞めちゃうよ」ってことですか。

石塚

辞めるのもそうだし、育てられないし。そもそも入ってもこなくなりますよ。

安田

これを解決するにはどうしたらいいんですか?

石塚

プロの人事を置くしかないです。ただ雇用契約で置いてしまうと、そこまでの仕事はなかったりするじゃないですか。

安田

ですね。

石塚

だから週1回とか週2回来てくれる人を、業務委託で契約すべき。

安田

それは社労士さんでもいいんでしょうか。

石塚

もちろん。社労士さんで、週1・週2でちゃんとやってくれる人って、実はいらっしゃって。僕も紹介してます。

安田

制度づくりも頼めばやってくれますよね。

石塚

そうなんですよ。でも経営者ってそんなに知識がないから。「賃金下げたら訴えられる」ぐらいに思ってるんですよ。

安田

思ってますね。

石塚

不利益変更は手厳しく罰せられるという認識があって。毎月25日に「本当はこんなヤツにこんなに払いたくないんだけど、しょうがないなあ」って思いながら払ってる。

安田

すごいストレスでしょうね。

石塚

おっしゃる通り。今これがすごく経営者のストレスを生んでます。

安田

なぜそうなるまで放置しておくのか。

石塚

もともと日本の給与って、定年まで上がる仕組みでつくってるんですよ。「これ、上げる評価じゃないよね」って人でも、みんな上がるわけです。

安田

それが当たり前になっちゃてると。

石塚

周りもずっと同じ賃金制度で来てるので。

安田

変えればいいじゃないですか。

石塚

給与評価制度を変えるって結構なパワーがかかるんです。

安田

揉めそうですよね。

石塚

間違いなく揉めます。

安田

まずは人事のプロを雇えと。

石塚

まずは賃金制度を変えるってことを決めないと。

安田

そこからですか(笑)

石塚

そこからですね。ちゃんと決めて、プロに委託して。それでも1年ぐらいはかかりますよ。

安田

若い子は待ってくれますかね。

石塚

待てないから「辞めよう」って思うんじゃないんですか。

安田

今すぐ「ちゃんと評価される会社に行こう」ってことですか。

石塚

それもあるし、「このままだと自分もああなる」って思うじゃないですか。

安田

今の20代・30代って、そんなに前向きな人ばかりなんですか。

石塚

もちろん全員がそうだとは言わないけど、優秀層は確実にそう。

安田

そこが抜けると会社はもうもたないと。

石塚

前にも話しましたけど今の組織って「1・0・9」なんですよ。いわゆる中間層ってもういない。「優秀か、そうじゃないか」だけ。

安田

「言われたとおりのことを、やってくれるだけでありがたい」って、前におっしゃってましたよね。そういう仕事なら「9」の人でも出来そうですけど。

石塚

仕組みがあればそれで回ります。ただし、その仕事で昇給させ続けていいのか?って話ですよ。

安田

なるほど。

石塚

どんなにすごい仕組みでも、同じ能力の人間を昇給させ続けたら必ず破綻します。

安田

そりゃそうですね。

石塚

もちろんリーダーは必要です。人をまとめたり、教えたり、現場を管理したり。

安田

そこまでは昇進できると。

石塚

本人次第ですね。要は「あなたやりますか?やりませんか?」って話ですよ。

安田

なるほど。「やります」となった人だけが昇進していく。

石塚

ただし頭打ちはありますよ。個人的には中小企業はゆるやかな年功序列がいいと思ってまして。40か45で昇給は止めたほうがいい。

安田

リーダー的な存在でも上げ続けることは出来ないと。

石塚

無理ですね。仕組みを作り出すわけではないので。だけど下げる必要もない。

安田

上げすぎるから下げざるを得なくなるんですね。

石塚

おっしゃる通り。400万なら400万でやり続けてもらう。エッセンシャルな仕事をやってもらう人は当然必要なわけで。

安田

やり続けてくれますかね。

石塚

格別優秀じゃないけど、正直できちっと仕事をやる人は残ると思う。そういう人がその職種では優秀なわけですよ。「優秀」の定義って、仕事や職種によって変わるんです。

\ これまでの対談を見る /

石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

感想・著者への質問はこちらから