この記事について
半世紀も生きてきますと、【ことわざ】の持つ意味が、より深く染みるようになりました。昔の人はうまいこと言ったもんだなぁと、しみじみ。時代の転換期、大きく世の中が変わってゆく中でも、人やこの世の本質的な部分は、案外変わらなかったりします。結構スルドイところを突いてくるのです。
本日のことわざ
「一升の餅に五升の取り粉」
あのさ、創業した会社を手放そうと決めた理由はいくつかあるのだけどさあ。
ほう。
今日はその中のひとつについて、話そうと思うんだ。
ハイ、聞きますよ。
消防設備のお仕事を始めた頃、毎日色んな建物を回って点検したりお客様に設備の使い方を教えたり、、、子持ちの状況で早朝からの現場仕事は大変ではあったけれど、でも楽しかったんだよ。喜んでもらえたりするので防災のお仕事ってやりがいあるなあって!
フムフム。
でも、末端の5次下請けみたいな最下層のポジションで頂くお仕事はものすごく単価が安いのと、あっさりばっさり!切られるので、来月の仕事すらどうなるかわからない状況だったから、組織を大きくせざるを得ない状況だったのね。お客様により近いところからお仕事を頂くようにするためには、会社をある程度の規模にしないといけなかったんだ。認可認定を取得したり、協会への加入なんかも必要になるし。
それで社員を増やしていったのね。
そうなのよ。そうしないと売上が立たないし先が無いので、雇っている人たちへの給与をきちんと支払っていくためには、拡大していかなければならなかった。
賞与や昇給もあるしね。
そうなの!それがネックだった。やっぱり、去年と同じ給与ではだめだという事、また、ボーナスは会社の業績が良かったらその分還元する、、、という規定になっていても、従業員側からしたらそんなの関係なく、やっぱり去年と同額かそれ以上は欲しいってなるよね。確かにダンナがサラリーマンのときは私もそう思っていたからわかる。アテにもするしね、ボーナスww
そうね。
まあ、やみくもに拡大路線ではなくて、創業時からダンナが単年度と中長期の経営計画を詳細に作っていたので、これ以上採用は増やさず毎年の新卒のみ採用で、経営がある程度安定するというラインがあった。とりあえず、その規模になるまでは、積極的に採用を続けて社内で技術者として育成する必要があった。
技術と資格と両方必要だもんね、キミのお仕事。
管理会社やビルメンなどから、直接お仕事を頂けるようになったら、他の同業者と同じように、下請けに丸投げするのが一番利益が出る。でも、自社作業にこだわったからさ、、、、大変だった。特にここ数年は、労働者側の意識の変化や法改正なども急激に進んだから、会社側はどこも本当に大変だと思うよ。
ほう~。
ウチの業界が、なぜ作業を下請けに丸投げするかってさ、現場仕事って無理なのよ。
成果報酬型にならない限り、難しい。今の労働基準法だと実質不可能に近い。
現場の移動時間が平均して3時間位かな。多いと5時間位になっちゃう。しかも休憩時間の算定もむずかしいし、しづらい。
なるほどね~。だから、現場作業は屋号を持った職人さんの集まりや、ひとり親方が多かったのね。会社として「雇用」しているというスタンスだと、難しかったのか~。
そう、だから残業が少なくなるように、昼間の事務所があいてる時間にパートさんに消防署に提出する書類作成をしてもらったり、利益がでるバランスをみながら分業を試みた。またDX化をすすめる、組織づくり、支店を出す、、、利益を出し続けながら色々やっていかなくちゃならなかったんだ。その間に採用も続けていたし。
人を使うのがイチバン難しい。
ほんと難しいのだけどそうもいかなくて。うちの商品は「技術」だから、技術者つまり【人】なんだ。
そうだわね、確かに。
数年前までほんんっとに「残業代未払い」目的でこの業界の会社を渡っている輩多かったんだ!同業の社長さん、知ってるだけでも8割くらいの人は、ゆすられたり訴えられたりしてる。だから協会みんなで弁護士を雇おうみたいな動きもあった。
あらまあ!
もうね、、気づいたら労働基準法に詳しくなってた。本業である消防法の法改正をちゃんと把握していきたいのに、その余裕がない。いつの間に、「わたし防災の仕事しているはずなのに!?」って。
はあ~やっとここで、本日のことわざですか!
【一升の餅に五升の取り粉】いっしょうのもちにごしょうのとりこ
主となる事柄よりも、付随する事の方がかえって多くなるというたとえ。
まさに、そんな状況になってしまっていたのです!「うわーもう、なにやってんだ私!防災のお仕事からかけ離れたことばかりやってる、、」ってね。
まあ、会社を売却した理由は他にも色々あるけどね。今、顧問という立場になってなんか本当にやりたいことに近づけているかな。
あら、よかった☆
著者について
黒須 貴子(くろす たかこ)
https://tempurayama.com/
数々のアルバイトや専業主婦などを経て、消防設備の会社を設立。下請けからの脱却、女性消防設備士の登用など、難題に直面してきた経験をシェアして生かせる〈社長峠の茶屋〉を始める。学生時代はパンクロッカー、現在はヴィジュアル系のキャンサーサバイバー。