第238回 インフレに乗り遅れるな

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第238回「インフレに乗り遅れるな」


安田

最低賃金がついに1000円を超えたそうですね。

久野

全国平均が1000円を超えました。

安田

まだ1000円以下の地域もあると。

久野

そうです。ただ前も言いましたけど4%上がるって凄いことで。20万の給与だと8000円ですよ。

安田

日本経済は4%も成長してないのに。

久野

単純に言うと粗利に4%以上は乗っけないと回らない。とくに労働集約産業はもう成り立たないです。

安田

ネットの反応は二極化してますね。労働側は「税金アップに全然追いつかない」という意見が多くて。経営側は「もう人なんか雇えない」と。久野さんはどう思いますか? 

久野

雇用は減らないと思います。人不足なので力のある企業が雇いまくる。もう止まらないと思いますよ。

安田

これ以上賃金が上がったら人を雇えない」という会社は、もうやっていけないと。

久野

そのゾーンの会社が一番苦しいです。もう完全に需給バランスが崩れてますから。最低賃金もまだまだ上がりますし、最低賃金以上に上がっていくと思います。

安田

まだ最低賃金は上がりますか? 

久野

間違いなく上がります。来年5%は硬いんじゃないですか。

安田

じゃあ本当に全国最低が1000円を超える日も近い。

久野

絶対に超えると思います。

安田

それでも海外に比べると安いですもんね。

久野

最低賃金が増えたのはいいことだと思います。経営者はそこから考えるべきじゃないですか。逆算して成り立たない時点でもう無理ってことですよ。

安田

給料は高くなるし、採用にはお金がかかるし、育てても黒字になった途端に辞めるし。これ3点セットじゃないですか。

久野

それを織り込み済みでビジネスモデルを組み立てるしかないです。

安田

ちなみに人件費以外もインフレに向かっていくんですか。

久野

今とんでもなく上がってますよ。たとえばITツールなんて料金が2倍ぐらいになってます。

安田

なんと。

久野

日本のサービスや商品は労働集約型でコストを抑えてきたので。人件費が上がるってことは全部の値段が上がるっていうことです。

安田

なるほど。

久野

ITツールなんて1人単価で500円、600円、1000円と上がっていくんです。

安田

その分とうかいさんも値上げしなくちゃいけないですね。

久野

そうなんですけど。給与計算の代行サービスって1人100円増やすだけでいろいろ言われるので。

安田

それでも値上げするんですよね?

久野

はい。解約覚悟で値上げしてます。

安田

解約した会社はもっと安いところに頼むんですか。

久野

代わりがあると思ってますね。ただ今の時代もう安くは受けないんじゃないですか。

安田

どこも安売りは厳しいですもんね。

久野

そうなんですよ。絶対に人件費は上がっていきますから。しかも他社より上げていかないといい人材が来ない。やっぱり値上げしていくしかないですよ。

安田

つまり同業他社より上げるぐらいの決断が必要だと。

久野

はい。省人化するとしてもそのための人材が必要なので。

安田

省人化するための人材ですか。

久野

たとえばITツールを使って省人化するのに、1個1個の設定を人間がやらなきゃいけない。ロボットがやってくれるわけじゃないので。

安田

なるほど。少なくするためにも優秀な人材が必要だと。

久野

一定のところまで生産性を上げるのに人がいるんです。その後は増やさず成り立つようになっていくんですけど。

安田

仕組みをつくるのに人材が必要だってことですよね。

久野

そうです。雇用じゃなくてもいいって話もあるけど、業務委託でも張り付いてやってくれる人がいないと。

安田

専任に近い形でやってくれないと回らないと。

久野

そうですね。

安田

じゃあこれからもどんどん人を増やすんですか?

久野

ウチは時代に逆行しながら採用を頑張ってます(笑)

安田

そのためには社員の報酬も上げないといけないですよね。

久野

はい。かなり意識してあげてます。

安田

クライアントの社員さんも給料は上がってますか。

久野

ここ1年ぐらいでみんな上げてきてますね。だいたい5000円から1万円ぐらいは上がってます。

安田

上げられるってことは余力があるってことですね。

久野

ウチは他の事務所より顧問料も高いので。優良な企業さんがすごく多いです。

安田

高くても質が良ければいい」という会社じゃないと、これからは生き残っていけないですよね。

久野

とくに労働集約産業では「品質が良くて安い」なんて至難の業ですから。

安田

ありえないですよね。

久野

昔は情報が閉鎖されていたので、質のいい人材が定着してくれたんです。今はオープンなので「他社ならもっと稼げる」ってすぐバレちゃう。安くて質がいいのはもう無理です。

安田

質のいい人材ほど転職しちゃいますよ。

久野

昔でいうグッドカンパニーからも人材が流出してます。うちの会社にも地方銀行から転職してきたり。

安田

社労士さんも流動化してますか。

久野

もちろん社労士も流動化しています。

安田

流動化を前提にすると、新卒は何年で収益化しないといけないんでしょう? 3年もかかると厳しいですよね。

久野

半年経った頃に転職しますから。

安田

半年で黒字化しない人材は採っちゃダメと。

久野

でしょうね。半年でトントン。1年経ったら確実に黒字化して稼いでくれないと。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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