本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 |
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。 |
前職で営業マンだった頃、上司からこんな事を言われていたのを覚えています。
「安売りは絶対にしてはいけない」
「商品の価値を本当に分かってくれる顧客と取引しなさい」と。
そんな教えを受けて起業したにも関わらず、私はお店を開業して安売りに走ってしまいました。なぜ安売りはいけないと教えられていたはずなのに、私は安売りしてしまったのか?
その理由はいくつかありましたが、その中の一つが「値段が高い」とお客さんに言われるのが怖かったからです。
お客さんから「値段が高い」と言われるのが怖い。
商売を始める時にこう感じるのは、私だけではないと思います。
高いと思われたら、集客できず売上が立たない。
とは言っても、できれば自分の稼ぎも増やしたい。
こんな葛藤があるからこそ、値決めで頭を悩ませるオーナーが多いのでしょう。
結果的に私は地域最安値に価格を設定したこともあり、値段が高いと言われることはなかったものの、開業して一年が経っても儲けが全く出せない状況から抜け出すべく、段階的に値上げをしていきました。
値上げをして起きた集客面での変化は2つあり、1つは安さに共感してくれていた大半のお客さんを失ったこと。そして、もう1つは値上げをした後の方がお客さんが増えたということ。
もちろん単純に値段を上げただけではなく、同時にメニューの構成改善や商品の絞り込みも行ったため、集客が増えた原因全てが値上げのおかげと言うつもりはありません。
それでも、値上げが原因で既存のお客さんを失ったにも関わらず、トータルではお客さんが増えたという事実は私にとって大きな発見でしたし、何より自分が感じている商品の価値に共感してくれるお客さんがいるということを実感できて商売がより楽しく感じられるようになりました。
そんな当時の経験を振り返ってみて、つくづく思うのです。
「値決めの怖さは、お客さんに高いと言われることではなかった」と。
もし、私が値上げをしていなかったら、「価格が高い」と言われる怖さからは解放されていたと思います。ただ、値上げをしたことで自分が感じている商品の価値に共感してくれるお客さんと出会えたという事実は、裏を返せば、あのまま安売りを続けていたらこうしたお客さんたちに出会うことすらできず、商売が終わっていた可能性が高いということ。
安売りを考えた時、私たちは自分の儲けが減ることばかりに意識が向きがちですが、それより問題なのは、安売りすることで本来自分のお店に来て欲しかったお客さんたちを自らが遠ざけてしまっているという事実であり、当時を振り返って考えれば、値段が高いと言われる怖さよりも本当に会いたかったお客さんに会えずに商売を終えてしまう事の方がよほど怖い、と今は思うのです。
著者/辻本 誠(つじもと まこと)
<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/