第255回 社員が役員人事にNOを出す時代

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第255回「社員が役員人事にNOを出す時代」


安田

OpenAIって知ってますか?

久野

チャットGPTの会社ですよね。

安田

はい。社長が解任されて大騒ぎになりました。どうやら解任された社長は社員にめちゃくちゃ人気があったようで。「社長を戻さないなら全員辞める」という嘆願書を出して。

久野

結局、社長が元に戻ったみたいですね。

安田

取締役会が折れて社長を戻しました。すごいですよね。社長のために社員がみんなで辞表を提出するって。

久野

日本ではないでしょうね(笑)

安田

社長のためにここまでやってくれないですよ。「社長が嫌で社員がみんな辞めた」っていう話は聞きますけど。

久野

この社長さんはめちゃくちゃ優秀だったみたいですね。

安田

そうなんですよ。優秀なのに取締役会がクーデターを起こして解任しちゃった。

久野

クーデターは日本でも時々ありますけど。社員がそこで「社長を戻してくれ」っていう話は聞かないです。

安田

しかも1割2割じゃないですからね。ほとんどの社員が署名したっていう。

久野

日本だったらまず自分のことを考えますよ。

安田

自分のクビをかけてまで社長を守らないですよね。

久野

守らないですね。仮に不満があってもそのまま去っていくでしょうね。

安田

OpenAIの社員ってめちゃくちゃ優秀で。「辞めるなら全員マイクロソフトが引き受ける」と言われていたらしくて。

久野

そうみたいですね。だから取締役も逆らえなかったんでしょう。本当に全員辞めちゃったら会社として成立しなくなるから。

安田

社員の入れ替えは無理ですか。

久野

人についている技術もあるし事業そのものがそんな感じなので。今いる人たちがいなくなったら成り立たないと思います。

安田

それだけ優秀な社員だからこんなに強気なことができるんでしょうね。次の就職に困るレベルだったらこんなことできませんよ。

久野

出来ないでしょうね。どうなっても食っていけるという自信があるから、こんなことが出来るんですよ。

安田

最近、日本でも優秀な若手がどんどん転職していくじゃないですか。終身雇用なんてまったく求めてない。

久野

求めてないですね。

安田

そうなると、今までみたいに強烈なトップダウンが通用しなくなるでしょうね。あまり無茶な指示を出すと「だったら辞めさせてもらいます」みたいになっちゃって。

久野

本当にそうなると思います。これからは下剋上状態になるんじゃないですか。

安田

中小企業なんてもう腫れ物に触るような感じですよ。若い子が辞めちゃうと仕事が回らないので。なんとか辞めないように。パワハラしないように。

久野

機嫌を損ねないように、早く家に帰らせて。

安田

飲み会でも無茶はせず、社長がお酌に回ったり。

久野

「辞めないでね」ってお願いしながら(笑)

安田

ホントそういう時代ですよ。あと数年したら今以上に転職が当たり前になるでしょう。下から見て納得のいく人事をしないと辞められちゃう。

久野

「この人事が納得できません」って20〜30代の社員が全員で辞表を持ってきたりして。大変なことになるでしょうね。

安田

役員人事に若手が口を出すなんて昔は考えられなかったですけど。社員が優秀であればあるほど会社の方が弱い立場になります。

久野

今までのストライキはパフォーマンスに近かったですけど。本当にいなくなられたら大変ですよ。

安田

オーナー社長といえども高圧的なマネジメントはもう無理ですね。みんなで本気のストライキをされちゃって。

久野

たぶん日本人はそこまでしないでしょうね。あっさり辞めていくと思います。

安田

そんな面倒なことはしない。ただ転職するのみ。

久野

とくに今の若い子は揉めるのが嫌いなので。

安田

パワーマネジメントをしていた社長さんはどうしますか。「俺の言うことが気に入らないなら辞めろ」って昔は平気で言ってましたけど。

久野

報酬のいい会社に多かったんですけど。ただ業績が悪くなるとみんな辞めていきますね。

安田

金の切れ目が縁の切れ目というか。高い報酬を払い続けるしかないと。

久野

今は儲かって余裕がある会社ほど優秀な社員に優しくて。だから報酬が良くてもやっぱり転職しちゃうと思います。もうパワーマネジメントは無理ですよ。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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