第46回 創業社長に向く人、承継社長に向く人

この対談について

株式会社ワイキューブの創業・倒産・自己破産を経て「私、社長ではなくなりました」を著した安田佳生と、岐阜県美濃加茂エリアで老舗の葬祭会社を経営し、60歳で経営から退くことを決めている鈴木哲馬。「イケイケどんどん」から卒業した二人が語る、これからの心地よい生き方。

第46回 創業社長に向く人、承継社長に向く人

安田
鈴木さんはのうひ葬祭の2代目ということで、いわゆる「承継社長」ですよね。一方で、不動産事業に関してはほぼ「創業社長」みたいなものだと思うんですけど、「創業」と「承継」で何か決定的な違いを感じますか?

鈴木
うーん…どうだろうなぁ。創業するということは0を1にするわけで。それって結構なエネルギーが必要だなとは思いますが…。安田さんは「創業社長」として何か思うことがありますか?
安田
「承継社長」ってものすごい大変だろうなと思っています(笑)。

鈴木
なんでそう思われるんですか?(笑)
安田
だって「他人が採用したメンバー」がやっている「他人が作った事業」を引き継ぐんですよ? やりづらくてしょうがないですよ(笑)。その点、創業社長は全部自分の思う通りにできるじゃないですか。だからすごくやりやすい。

鈴木
なるほどなぁ(笑)。
安田
もちろんその分アイデアやエネルギーは必要ですけれど。というか、創業社長も承継社長も同じ「社長」というくくりですけど、求められる能力や資質は全然違いますよね。

鈴木
仰る通りだと思います。例えば僕の父は創業社長ですけど、もし仮に父が2代目、3代目だったら、絶対にのうひ葬祭はうまくいっていなかったでしょうね。
安田
あ、そう思われますか。つまりお父様は創業社長しかできないタイプだったんですね。私と同じだ(笑)。

鈴木
笑。ちなみに僕自身は承継社長向きだと思います。ゼロイチではなくて、1を2や3に増やしていくほうが楽しいタイプなので。
安田
そうなんですか? でも私、鈴木さんって創業社長っぽい考え方だなぁと感じることがよくありますけどね。実際『相続不動産テラス』も「創業」されているじゃないですか。

鈴木
それは創業社長が築いた「ベース」があるからこそできると思っています。創業って本当に何もないところから作り上げなきゃいけないじゃないですか。それはたぶん僕には無理(笑)。
安田
笑。ところで2代目である鈴木さんは、お父様からのうひ葬祭の経営について直接学ばれてきたと思いますが、創業社長と承継社長とでは「経営方針」も変わりましたか?

鈴木
変わったと思います。例えるなら創業社長が「動かし始めた」ものを、僕の代で「更に加速させている」イメージというか。誰にも知られていないところから始まり、ある程度認知されてきた状態で継いでいるので、あとはいかにそれを広めていこうかという段階。そういう意味では経営の方法も若干変わりますね。
安田
なるほど。ここまでお聞きしていると、鈴木さんは2代目として承継後も積極的に「攻めの姿勢」で経営されているようです。でも中には事業を継いだ後にガッチリと「守りに入る」社長もいて。

鈴木

それは、会社を引き継いだ時のまま維持していくということですか?

安田
そうです。特に老舗企業の承継社長にその傾向が強い気がします。8代9代と続いてきたこの家業を自分の代で終わらせるわけにはいかない。なんとか自分の代を無事に乗り切り、次の代に引き渡すことこそ使命、と考えざるを得ないみたいで。

鈴木
あぁ、確かに。そういう環境に育ったら継がない選択肢なんて絶対ないでしょうし。それはそれで、逃げ場がなくてなんだか可哀想に思えてしまいますね。
安田
同感です。そういう意味では、自分で言うのもなんですが、創業社長ってわりと欠落している人が多いと思いませんか?(笑)

鈴木
え、どういうことですか?(笑)
安田
ゼロイチってすごくリスキーだしうまくいく保証も全くないから、ある意味無謀なチャレンジなんですよ。でもそれをあまり深く考えることなく勢いでやってしまう。だからちょっと自己中で思考が偏った人が多い気がして(笑)。

鈴木
周りの創業社長たちを思い浮かべてみると、確かにそうかもしれないなぁ(笑)。
安田
笑。かたや継承社長って、比較的バランス感覚がある人が多いと思うんですよ。鈴木さんはその辺り、どう思われます?

鈴木
バランス感覚…あんまり自覚はないですねぇ(笑)。でも、会社を継ぐ時に「親父とは絶対喧嘩をしない」ということを決めて、それだけは守りました。
安田
ほぉ。なぜそんなことを決めたんですか?

鈴木
お互いの意見を押し通した結果、失敗している会社をたくさん見てきたからです。創業社長としては「自分がこの会社を作り上げたんだ」というプライドがあるのに、2代目に「親父のやり方なんて、古いんだよ」とか言われたら良い気はしないじゃないですか(笑)。
安田
先代と現社長の間で経営方針をめぐって大喧嘩になるのなんて、あるあるですよ(笑)。

鈴木
ですよね(笑)。だから僕は父親の言うことには反論せず、「従ったフリ」をしていました(笑)。
安田
ほぉ。表立って喧嘩はしないけど、単純なイエスマンになるわけでもないと。

鈴木
そうそう。だから先ほどの話に戻すと、そういった意味では僕にも「バランス感覚」はあるのかもしれない。立場をわきまえつつ、ちゃっかり自分の意見は通していたので(笑)。
安田
ちなみに「従ったフリ」と仰ってましたが、実際にどういう風にやられていたんですか?

鈴木
例えば親父が「これは、こうやれって言っただろ」と言ってきたとする。そうしたら僕は「うん、やってみたんだよ。でもちょっとうまくいかなかったから、今はこっちで試してみてるんだ」と返すわけです。
安田
でも実際は、最初からお父様が言われていたやり方ではやっていない時もあると(笑)。

鈴木
はい、それはもちろん(笑)。結局、「親父の言う通りにやってみたんだけど」というフレーズが重要なんです。そのワンクッションがあるだけで、創業社長へのリスペクトを表すことができると思うんですよね。
安田
なるほどなぁ。承継社長としてやるべきことはやるんだけど、先代をうまく説得しながらやるということが大事なわけですね。いやぁ、これはすごいテクニックですよ! ぜひ、事業承継で揉めている企業に入って、そういうコンサルやってください(笑)。

鈴木
笑。とはいえ正直なところ、たぶん親父もそれなりに気づいてはいたと思います。「こいつ、俺の言う通りにはしてないな?」って(笑)。でも親父も表立って無碍にされているわけじゃないので、文句を言う気も起きなかったんじゃないかな。
安田
お父様をうまく納得させることができていたんですね。

鈴木
だと思います。基本的に僕、争いが嫌いなので。前にも言いましたけど「不戦勝」がいいんです(笑)。
安田
なるほど。「戦わずして勝つことで、事業承継はうまくいく」というわけですね。

 


対談している二人

鈴木 哲馬(すずき てつま)
株式会社濃飛葬祭 代表取締役

株式会社濃飛葬祭(本社:岐阜県美濃加茂市)代表取締役。昭和58年創業。現在は7つの自社式場を運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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