第222回 値上げこそ小規模経営が活きる道

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

昨年、私のお店は多くの商品を値上げしました。
理由はもちろん、原材料の高騰によるものです。

企業努力によって値上げしないという選択肢がなかったのかと聞かれたら、それも可能だったかも知れません。お客さんの支出を増やすことなく、お店側の努力によって価格を据え置くことができれば、それを打ち出すことで集客を増やせる可能性だってあった訳です。

そんな可能性があることは分かりつつ、同時にこうも思うのです。
「逆に値上げをしないことこそが、小規模経営の強みを失う選択なのではないか」と。


もし、私の開業時に、現在のような環境に置かれていたらどんな選択をしたのか?
そう考えてみると、答えは恐らく「儲けを限界まで削って価格維持の努力をする」という選択をしていたと思います。

理由は冒頭に書いた通り。
当時の私は利益をできるだけ削り、他店よりも価格の優位性を持つことが集客アップに繋がると考えていたからです。

ただ、今から振り返ってみると当時の私には見落としていたことが一つあり、それが何かというと、お客さんはお店に対して「お金」だけでなく「時間」も払っているという事実であり、そう考えれば私には「お客さんが支払う商品価格を安くする」という選択以外に、「お客さんがお店で過ごす時間価値を高くする」という選択もあったということ。

「価格を上げない努力をする」
この取り組み自体を否定するつもりはありません。

それでも、お客さんが支払う価格というお金ばかりに意識を取られ、儲けを削ってしまった結果、お客さんがお店で過ごす時間の価値を高める取り組みに対する投資も出来なくなってしまっては、それこそ小規模経営の強みを活かせるチャンスを失う選択といえるのではないでしょうか。

仕入れの努力はする一方で、しっかりと利益が取れる価格設定をする。
上げた商品の価格以上に、お店で過ごす時間価値を高める方法を考える。

これが今の私が考える小規模経営の進むべき道であり、勝ち目のない大手との価格競争に頭を悩ませるよりも、お客さんが喜んでくれそうなお店での時間の過ごし方に頭を悩ませた方が、お客さんも自分も楽しいのではないかと思うのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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