第5回 個人店の「希少性」が、生き残る秘訣

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第5回 個人店の「希少性」が、生き残る秘訣

安田

私が子どもの頃は、ケーキ屋さんといえばほぼチェーン店でした。親がたまに某大手ケーキ店のシュークリームを買ってきてくれて。あれは嬉しかったなぁ(笑)。


スギタ

いい思い出ですね(笑)。

安田

でも今って、チェーン店のケーキだとあんまり喜ばれない気がするんです。それよりも、こだわった個人店の方が人気というか。


スギタ

ああ、そうですね。実際そうなってきてると思います。

安田

なぜそういう風潮になってしまったんでしょうね? チェーン店だからといって、別に味が悪いわけでもない。たぶんよっぽど舌が肥えた人じゃなければ「これはチェーン店のケーキだな」なんてわからないと思いますし。


スギタ

仰る通りなんですけどね。でも「これはチェーン店のものだよ」と言われると「ああ、なんだ…」とちょっとがっかりしてしまうのも分かるというか(笑)。

安田

まぁ、私もそうなんですけど(笑)。実際、そういう人が増えているからチェーン店の売上が落ちているんですかね。


スギタ

いや、必ずしも売上が落ちているわけではないですよ。たとえばシャトレーゼさんもチェーン店ですが、ずっと業績は伸びている。国内だけで820店舗も展開していて、今や「シャトレーゼ一強時代」と言ってもいいくらいの成長を続けてます。

安田

へぇ、そうなんですか。シャトレーゼの売りはなんなんです? やっぱり価格の安さですか?


スギタ

そうですね。安くて気軽に買えるけど、充分に美味しいということでウケているんでしょう。

安田

なるほどなぁ。そうすると今って、街の個人店はシャトレーゼと競合しなくてはいけなくなっているんでしょうか。


スギタ

うーん、どうでしょうかねぇ。実は数年前に、ウチのお店から車で5分くらいの場所にシャトレーゼができたんですよ。

安田

え、そうだったんですか。すごい脅威じゃないですか。


スギタ

ええ(笑)。正直、売上の20%、30%ダウンも覚悟しなきゃいけないかも…と思っていました。ところが蓋を開けてみたら、まったく影響がなくて。

安田

ほぉ。近くに最強のチェーン店ができたのに、売上は下がらなかった。


スギタ

そうなんです。つまり、シャトレーゼを利用されるお客様と、ウチのお店に来られるお客様が違っていた、ってことですよね。もしくは、同じお客様でも2つの店を使い分けていらっしゃるとか。

安田

なるほど。用途によって行くお店を変えている人もいるわけか。ちなみにスギタさんのケーキ屋さん『ハーベストタイム』は、1店舗だけじゃないですか。シャトレーゼさんほどじゃないにしても、店舗数を増やそうとは考えていないんですか?


スギタ

ああ、昔チェーン展開したいと思っていたことはありましたよ。いろいろ勉強もしましたし。

安田

そうでしたか。どうしてやらなかったんです?


スギタ

いろいろ勉強する中で、「ウチがチェーン展開したら、逆に勝てなくなってしまうぞ」というのがわかってしまったんですよね。

安田

へぇ、それはなぜ?


スギタ

経営的な話とか物件の話とかいろいろありますけど、一番は今日のテーマそのままです。つまり「自分自身も自分の周りも、あまりチェーン店で買い物をしなくなってるぞ」っていう(笑)。

安田

ああ、なるほど(笑)。とは言え、「店舗数が増えれば会社も大きくなってもっと儲かる」というのが、やっぱり経営のセオリーだと思うんですけどねぇ。


スギタ

ええ。普通に考えたら、認知度が高まるのは良いことですよね。「誰に聞いても知っているお店」になれば、それは当然集客にもつながるわけで。でももしかすると、それにも「臨界点」があるのかもしれないと思っていて。

安田

ほう、臨界点。


スギタ

そこを超えると、「あ〜どこにでもあるあの店ね」となって、途端にお店としての価値が消えてしまうラインがあるというか。

安田

ああ、なるほど。知名度が上がりすぎると、それはむしろマイナスに働いてしまう時代になっていると。


スギタ

そうそう。今は逆に「希少性」に対する価値が高まっているんだと思います。「そこまで行かないと買えない」「ネットでは買えない」「その場でしか食べられない」ということの価値が高くなっているんです。

安田

なるほどなぁ。だから個人店が人気になっているんですね。確かにプレゼントするにしても、それがどこでも買えるものだったら、送る側の付加価値にはなりませんもんね。


スギタ

そうなんですよ。それが冒頭で言っていた、「チェーン店のものだとなんとなくがっかりする」という気持ちにつながってくるんじゃないかなと。

安田

なるほどなるほど。一方で個人店の中には、チェーン店に寄せる店もあるじゃないですか。商品ラインナップも金額もチェーン店を真似して。あれ、不思議でしょうがないんですよ。なぜ自ら「個人店の強み」を捨てているのかと。


スギタ

それについては僕も同感です。もちろん必要以上に高くする必要はないですけど(笑)、チェーン店に対抗するための安売りなんて、絶対してはいけないと思っています。

安田

ですよね。価格に見合った美味しさやこだわりがあれば、お客さんは普通に買うんですよ。だってケーキって「ハレの日」の食べ物じゃないですか。ケーキを食べることで特別な満足感を得たいから買うわけで。


スギタ

まさにそうなんです。どうしても「ケーキ屋」というくくりの中だけで考えると、「チェーン店に比べたら高いよな…」と思われがちですが、「お祝いのシーンを華やかに盛り上げたい」というニーズを満たしているんだと考えたら、安売りをする必要は全くないかなと。

安田

仰る通りです。そしてそういう「付加価値」が提供できる個人店こそが、安くて手軽なチェーン店にも負けずに生き残っていけるんでしょうね。


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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