第18回 人工ジュエリーの未来予測

この対談について

母から受け継いだ指輪をネックレスに、片方なくしたピアスをペンダントに、思い出の詰まった2つのリングを溶かして1つに――。魔法のようにジュエリーを生まれ変わらせるジュエリー修理・リフォーム専門店「Refine」(リファイン)。代表の望月信吾さんに、お客様に感動を届けるジュエリーリフォームの魅力、そして波乱万丈な人生についてお聞きする対談企画です。

第18回 人工ジュエリーの未来予測

安田

前回に引き続き、「人工ジュエリー」についてお聞きしたいと思います。非常に品質の高い人工ジュエリーが作られるようになったことで、天然物を超えていく可能性はあるんでしょうか?


望月

うーん、ユーザーが人工か天然かを全く気にしなくなるかというと、難しい気がしますね。

安田

ほう、それはどうしてですか?


望月

人工ジュエリーってどこまでいっても「作り物でしかない」という側面があると思うんです。マグロでも、養殖はあくまで養殖で、天然とは価値が違うじゃないですか。

安田

ああ、なるほど。でも最近のマグロは養殖でも天然に引けを取らない味で人気もありますよね。そんなふうにこれから価値観が変わっていく可能性もあると思うんです。


望月

確かに、人工ジュエリーの価値が高まっていく可能性は否定できませんね。

安田

アパレルでいうと、ラルフローレンも昔はアメリカで作られているもの以外は安く売られていたりした。でも今は、どこで作られていようが、ラルフローレンタグさえ付いていれば正規のラルフローレン価格で売られているわけです。


望月

確かに、そういう変化もありますね。国民性もあると思いますけれど。アメリカはわりと合理的というか、「同じものであれば安い方がいい」という考え方が主流な気がするんです。それに比べて日本人はもう少し慎重というか。

安田

ああ、なるほど。確かに物事の「背景」を大事にする部分はありますよね。


望月

そうなんです。しかもマグロのように食べてなくなるものではなく、何十年も受け継いでいくものだと考えると……。数週間でできる人工ダイヤに、何億年もかかってできた天然ダイヤほどの神秘性はないわけで。

安田

うーん、確かにそれはそうですね。


望月

もちろん人工ダイヤの需要も伸びていくと思います。それに併せて、人工ダイヤの中でも価値の差が生まれていくんじゃないかな。例えば前回も話した「ラボグロウンダイヤ」のような精巧な人工ダイヤと、あまり精巧でない人工ダイヤがあったら、当然前者の方が価格も高くなるわけで。

安田

ははぁ、なるほど。「天然物か人工か」ではなく、「どれだけ精巧な人工ダイヤなのか」という価値基準ができてくるというわけですね。いやぁおもしろい。そういえば前回、天然物か人工かを見分けるには何千万円もする機械を使う必要があるって仰ってましたよね。


望月

ええ、その通りです。我々のようなプロをもってしても、目視ではもうわからないレベルなので。

安田

仮にですよ、これからさらに技術が進んで、その何千万もするような機械ですら見分けがつかなくなる、という未来はあり得ますかね。


望月

それは鋭い指摘です。実際、今は判別する機械の方が勝ってますけど、それを人工ダイヤの開発技術が追い抜いてしまったら……。正直、そうなった場合になにが起こるのかは予想がつかないですね。

安田

うーん、おもしろい話ですねぇ(笑)。業界の方にとっては死活問題なのでしょうけど。とはいえ一方で、やっぱり「ストーリー」って大事だと思うんですよ。ブランド物もストーリーを売りにしてますよね。エルメスのバーキンも、いきなりお店に行っても売ってもらえない。


望月

何年も通い続けて上得意になって初めて売ってもらえるらしいですね。だからそこに辿り着くまでは、中古で買うしかない。結果、新品よりも中古の方が高くなるなんて逆転現象まで起こってしまって(笑)。

安田

そうなんですよね(笑)。ともあれ、そもそもなぜバーキンの人気が高いかというと、女優のジェーン・バーキンが愛用していたという物語があるからで。顧客はその物語を買っているともいえるわけじゃないですか。

望月

仰る通りだと思います。興味がない人からしたら、ただの革のバッグでしかないわけですから(笑)。

安田

そうそう。つまりバーキンのストーリーを誰かがマーケティング用のストーリーに仕立てたわけですよ。そう考えるとね、「天然ダイヤが何億年もかかって作られた」という話も、実は誰かが作り上げた物語なのかもしれない。

望月

うーん、なるほど。その視点はなかったです。でも確かにそうかもしれませんね。

安田

もっとも、すごくよくできた物語なんですよね。前回「天然のジュエリーには不純物が含まれている」というお話も出てましたが、見方を変えると、「完璧じゃないからこそ価値がある」とも言えるでしょう? 例えばバカラのグラスも今は大量生産ができるようになって、全く同じ形のものが作れるようになっていますけど、昔のほうがよかったと言う人もいる。

望月

ああ、昔は職人が手作業で作っていたから、一つ一つ微妙な違いがあって、それが魅力の一つでもあったと。

安田

そうそう。もちろん形の揃った新品のほうがいい、という人もいるでしょうけど、それはあまり「物語視点」ではない。

望月

ああ、確かに。物語自体に価値を感じて買っているわけじゃないですもんね。

安田

そうそう。例えば100年前のアンティークに価値を感じる人もいるでしょう? 綺麗さで言えば最近作られたものの方が優れているのに、それでは満足できない。

望月

むしろ、そういう方のほうが高い感性をお持ちだとも言えますよね。ただ、そういう方はどんどん減っている印象です。実際、マーケットには既に大量の人工ジュエリーが流入していますが、全然問題にもなりませんので。

安田

そうなんですか! それはつまり、買った本人も気付いていないから、ということですよね。

望月

そうですね。しかも厄介なことに、1つの商品の中に天然物と人工物が混在していたりするんです。1~2ミリ程度の小さなダイヤをメレダイヤというんですが、それらを1つ1つすべて専門の機械で鑑定することはできません。つまり、目視で気付けない以上、確かめようがないんですよ。

安田

ふーむ、じゃあ数十個のダイヤが付いているネックレスのうち、20%くらいが人工でもわからないわけだ。

望月

わからないです。ただ問題は、「人工物が入っているかもしれない」となれば、価格にも影響が出てくるだろうということで。宝飾業界にとって、非常に大きな問題だと思います。

安田

なるほどなぁ。ちなみに今の人工ダイヤはどのくらいの大きさのものまで作れるんですか?

望月

そうですねぇ、最大だと20~30カラットくらいまで作れるとは聞いていますが。同じ大きさの天然ダイヤを買うとしたら、数十億円はくだらないくらいの。

安田

へぇ! それとほぼ見分けがつかないものが10分の1の値段で買えるわけですよね。うーん、そう考えると、天然物には「物語の価値」はあるとはいえ、さすがに人工の方に流れていく気がしますね。いや、もう既に多くの人が人工ジュエリーを知らず知らず身につけているのかも。

望月

そうですね。一般に流通しているメレダイヤの中に、既に人工ダイヤが混ざっている可能性はあると思います。

安田

なるほどなぁ。人工ジュエリーが受け入れられるよりも、人工と天然が完全に見分けがつかなくなる方が先かもしれませんね。


対談している二人

望月 信吾(もちづき しんご)
ジュエリー工房リファイン 代表

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25歳で証券会社を退社後、父親の経営する宝石の卸会社に入るが3年後に倒産。その後独立するもすぐに700万円の不渡り手形を受け路頭に迷う。一念発起して2009年に大塚にジュエリー工房リファインをオープンして現在3店舗を運営。<お客様の「大切価値」を尊重し、地元に密着したプロのサービスを提供したい>がモットー。この素晴らしい仕事に共感してくれる人とつながり仕事の輪を広げていきたいと現在パートナー募集中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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