第70回 会社は誰のものなのか?

この対談について

「日本一高いポスティング代行サービス」を謳う日本ポスティングセンター。依頼が殺到するこのビジネスを作り上げたのは、壮絶な幼少期を過ごし、15歳でママになった中辻麗(なかつじ・うらら)。その実業家ストーリーに安田佳生が迫ります。

第70回 会社は誰のものなのか?

安田

前回の対談に引き続き、今回も「会社経営」について踏み込んだ話をお聞きしていきたいと思いますが…大丈夫そうですか?(笑)


中辻

ええ、大丈夫です(笑)。よろしくお願いします!

安田

今ちょうど7期目に入った『マメノキカンパニー』は、中辻さんにとっては初めての会社経営なわけですよね。それなのに、ゼロから事業を立ち上げて今や売上2億円規模の会社になっている。かなり自信がついたんじゃないですか?


中辻

そうですねぇ…おかげさまでそれなりにやれているかなとは思いますね。

安田

すごいですよ。そろそろ「自分の会社を作ろうかな」なんて考えたりしませんか?


中辻

え、自分の会社? それは独立するってことですか?

安田

そうそう。中辻さんくらいの実績と経験があれば、1人でも十分やっていけるじゃないですか。オーナー社長になれば、誰にも何も口出しされず、しかも利益は全部自分のものになりますよ?


中辻

いやぁ、そういうことは全然考えてないです(笑)。もちろん今後も経営者として「やりたいこと」はたくさんありますけど、今のメンバーと一緒にやりたいんで。だから別会社を作るとか、1人で丸儲けとか、そんな考えは微塵もないですね(笑)。

安田

もちろんその気持ちは理解できるんです。だってそのメンバーは中辻さんが採用して仕事を教えて一緒に会社を作り上げてきた仲間なわけですから。


中辻

そうそう。そうなんです。だからすごく大切で。

安田

でもね、例えばの話ですけれど、オーナー株主である久保さんが「マメノキカンパニーを売却しよう」という判断をするかもしれない。法律的には「会社は株主のもの」であって、そういう判断をするのも自由なんです。


中辻

うーん、確かに株主が株を売買するのは当たり前のことですもんね。

安田

そうそう。その結果、新しいオーナーによって経営方針や会社の雰囲気がガラッと変えられてしまう可能性もある。今のマメノキカンパニーは女性が働きやすい会社ですけど、新オーナーが「そんなの認めない」って言うかもしれないんです。


中辻

なるほど。実はそこに関しては私も最近よく考えるんですよね。前回の決算の時にも、銀行や税理士さんから「せめて半分くらいは株を持っていた方が…」なんて言われたりもしましたし。

安田

そうでしたか。健康的な会社経営には「経営と資本の分離」が大事だとは言われていますが、マメノキカンパニーの社員を守るためにも、ある程度の株を保有しておくのはいいんじゃないですか?


中辻

理屈としてはよくわかるんです。ただ、なんていうのかな…、久保さんって私のことを「親」のような気持ちで見守ってくれている気がして。20代そこそこで経営の「け」の字も知らないような私をここまで育ててくれたのは、やっぱり久保さんなので。

安田

ふーむ…だから「株を持たせてほしい」とは言いづらい?(笑)


中辻

ええ、それはちょっとあるかも(笑)。ただ一方で、安田さんが先ほど仰ったように、今の形がずっと崩れない保証はないわけで。

安田

中辻さんと久保さんが「親子のような関係」だというのは、傍から見ていてもよくわかるんです。ただそれはあくまでも「ような」であって、「本当の親子」ではない。つまり万が一久保さんになにかあった場合、中辻さんが株を相続することはできないわけですよ。


中辻

そう言われてみるとそうですね。「今は平和にやれているから、このままでええわ〜」っていうのは、ちょっと無責任なのかもしれないと思えてきました。

安田

無責任だとは思いませんが、そういうことを考えるべきフェーズに入ってきた、ということなんでしょうね。


中辻

そうかぁ…。正直な話、「自社株を持っておくことってそんなに重要なことなんかな?」くらいに思っていました。

安田

重要ですよ。仮に久保さんが「もう俺は引退するから会社は売る」となった時、中辻さんは「じゃあ私が買う」となるかもしれない。でもそれが「今」なのか「売上10億円になった時」なのかで、全然違うじゃないですか。


中辻

確かに10億円規模の会社の株は、買えないかもしれないですね(笑)。

安田

そうなんです。社員が事業を継げない最大の理由ってそれなんですよ。つまりイチ社員の立場では株を買うお金が用意できない。


中辻

なるほど〜。だから身内が相続して継ぐパターンが多いんですね。

安田

そうですそうです。でも今まで会社経営にはノータッチだった人が突然会社を継いだところで、うまくいくわけがないじゃないですか。そうなると結局、会社は傾いて、社員たちも路頭に迷ってしまうわけです。


中辻

なるほどなぁ。大切な部下たちを守るためにも、私も「責任とか法律とかよくわからんな〜」なんて言ってないで、ちゃんと勉強しなきゃいけないですね。

安田

そうですね。まずは一度、久保さんとも腹を割って話してみるといいんじゃないかと思いますよ。

 


対談している二人

中辻 麗(なかつじ うらら)
株式会社MAMENOKI COMPANY 専務取締役

Twitter

1989年生まれ、大阪府泉大津市出身。12歳で不良の道を歩み始め、14歳から不登校になり15歳で長女を妊娠、出産。17歳で離婚しシングルマザーになる。2017年、株式会社ペイント王入社。チラシデザイン・広告の知識を活かして広告部門全般のディレクションを担当し、入社半年で広告効果を5倍に。その実績が認められ、2018年に広告(ポスティング)会社 (株)マメノキカンパニー設立に伴い専務取締役に就任。現在は【日本イチ高いポスティング代行サービス】のキャッチコピーで日本ポスティングセンターを運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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