“生粋の商売人”倉橋純一。全国21店舗展開中の遊べるリユースショップ『万代』を始め、農機具販売事業『農家さんの味方』、オークション事業『杜の都オークション』など、次々に新しいビジネスを考え出す倉橋さんの“売り方”を探ります。
第70回 ビジネスの成功の秘訣は賞味期限の見極めにあり
倉橋さんがXで仰っていた、「食品以外の商材にも賞味期限がある」という話ついて詳しく聞いてみたくて。食品ならもちろん賞味期限があって、それまでに売りきらなくてはいけないというのはわかるんですが、リユース商品にも鮮度があるんですか?
それが驚くほどあるんですよ。あくまで感覚的にですが、「ああ、この商品はもう腐ってしまったな」と感じるというか。
えっ、食品でもないのに商品が腐るんですか?
もちろん比喩としてですけどね(笑)。別の言葉で言うなら「陳腐化する」というか。例えばここ数年、ポケモンカードがバブル状態になっていたのはご存知ですか?
ええ。子ども同士で取り合いになったり、盗難事件に発展したりもして、社会問題になりましたよね。
そうそう。大人が投機目的で買うようになったことで人気が加速したんです。一時は1枚のカードに数百万円の値がつくくらいまで価格が上がって。
へぇ! そこまで上がってたんですね。もはや完全に子どもの遊び道具の域を超えてますね。
そうなんです。でもそのバブルが昨年の8月頃に弾けて、価格が一気に5分の1とか10分の1くらいまで落ちたんです。投機商品って、需要がなくなると値段が一気に下がるんですよね。
確かにそうですけど、それにしてもすごい落差ですよね。ポケモンカードは万代さんも扱っていたと思いますが、同じように影響があったんですか?
ありましたね。僕らも長くリユース商品を扱ってますから、ある程度は慣れていたつもりでしたが、今回はかなり極端でした。
そうですよね。でも、そこまで価値が暴落してしまうと、もう売れなくなっちゃいませんか? 結局たたき売りするしかないような気が…
ええ。実際、日本の市場は非常に厳しかったです。ですからひとまず外国での販売ルートに乗せたりして、なんとかさばいたんですけれど。ともあれ、こういうトレンド食品というのは、一度陳腐化してしまうとなかなか厳しいですね。
ふーむ、なるほど。それでいうと、ブランド物の服もある意味トレンド商品じゃないですか。でもセールをすればすごい勢いで売れたりしますよね。
確かに仰るとおりなんですが、エンタメ商材はそうはならないんです。最初に言ったように「腐って」しまうものもあるし、ものによっては「ゴミ化」するとも言われるくらいで。
なるほど……バブルだからといっておいそれと手を出すのは危険ですね。
ええ、まさに。中古ビジネスではバブルが時々来るんですが、今までにたくさん痛い目にあってきているので、むしろ「バブル?危険だ!」と身構えてしまいます(笑)。
なるほど(笑)。倉橋さんみたいな中古ビジネスのプロほど身構えるわけですね。ちなみにそろそろ危ないぞ、というのはどの辺で判断するんですか?
それでいうと、投機的に買う人が出始めたら危険サインかもしれません。「自分が欲しくて買う人」が買っているときはいいんですが、「売るために買う」という人が多くなってくると、もうそろそろ危ないなと。
ふーむ、なるほど。でもそんな危険な商品だと、仕入れや販売のタイミングも難しそうですね。万代さんはどうしているんですか?
万代では専任のバイヤーが常に予測を立てているんです。多かれ少なかれブームの兆候があるので、それを見逃さないように。
ははぁ、バイヤーの方がそれぞれの商品ごとに「これはそろそろブームが来そうだな」とか「このブームは来月くらいに終わりそうだな」みたいに判断してるわけですね。ちなみにエンタメ商材以外でも「商品が腐る」ということはあるんですか?
「爆発的に売れたもの」はだいたいあったと思います。例えばユニクロのフリースは一時期めちゃくちゃ売れてましたけど、今はそこまでの勢いはないでしょう?
ああ、確かに誰もがユニクロのフリースを着てるような状態でした。その頃に比べたら見かけなくなりましたね。でも、じゃあ皆が何を着ているかって、ユニクロの新商品なわけですよね。つまり自分で新たなブームを作っているというか。
そうそう。そのあたりはやっぱりユニクロの凄さですよね。そこまででなくても、「トレンドの波」には乗れるよう常にアンテナを張っておくことが大切だと思います。特に小売業では必須ですね。
そこに顧客のニーズがあるわけですもんね。
仰るとおりです。顧客のニーズに合った商品をしっかり用意できるかどうかが、小売業で成功と失敗を分けるポイントでしょうね。トレンドの収束を見極めつつ、次のトレンドを予測して準備を進めておく。それが少しでも遅れると、ビジネスとしては大きな痛手になってしまうので。
なるほど。波に乗り遅れることもまた失敗だと。
ええ。ピーク時に商品が店になければ、大きな機会損失になりますから。鮮度がいいうちに大量に用意して、引くときは早く引くというのが鉄則です。
株式取引でも、下がり始めると手遅れになるから上がっている時に売らないといけない、ってよく言いますよね。それと似ているのかな。
ああ、確かに似てるかもしれません。どこで見切りをつけるかの判断は同じように難しいですから。
ちなみにそのジャッジは倉橋さんが?
いえ、そこはバイヤーに任せてます。
そうなんですね! かなり責任重大だなぁ。大きな利益が出ることもあれば、その逆もあるわけで。損害が大きい場合はどうなるんです?
仕入れなどの判断は任せていますが、きちんとロジカルにアプローチができていたのであれば、当然ですが個人に責任を問うことはありません。そもそも任命責任はこちらにあるわけですから。ただ、うまくいった時もうまくいかなかった時も、「必ず共有しよう」とは話しています。
なるほど。バイヤー全体でお互いに情報を共有しながら、成功確率を高めていくと。
ええ。ちょうど今の時期は年末商戦真っ只中で、数ヶ月前に立てた予測の答えが出てくるころですから、一番緊張するタイミングかもしれませんね。アニメでもゲームでも、毎年必ず何かしらのヒットは出てくるので。
そうか。確かにクリスマスから年末年始にかけて、小売業は一番盛り上がる時期ですもんね。「鬼滅の刃の次はこれだ!」と狙いを定めるわけですね(笑)。
そうですそうです(笑)。ライバル店には出せなかったヒットを出せたら、評価にもつながりますから。
ほう、それは気合いが入りますね。年末年始の万代さんの賑わいが楽しみです。
そうですね。今年はクリスマスから成人式までで全店で50万人くらいのお客様にご来店いただきたいと思っているので、どんどん盛り上げていきたいですね。
対談している二人
倉橋 純一(くらはし じゅんいち)
株式会社万代 代表
株式会社万代 代表|25歳に起業→北海道・東北エリア中心に20店舗 地域密着型で展開中|日本のサブカルチャーを世界に届けるため取り組み中|Reuse × Amusement リユースとアミューズの融合が強み|変わり続ける売り場やサービスを日々改善中|「私たちの仕事、それはお客様働く人に感動を創ること」をモットーに活動中
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。