第37回 消費期限や賞味期限を1日でも過ぎたら、もう食べちゃダメ?

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第37回 消費期限や賞味期限を1日でも過ぎたら、もう食べちゃダメ?

安田

私、甘いものが好きでケーキもよく買うんです。ただお気に入りのケーキ屋さんがちょっと遠いので、いつも2日分くらいをまとめ買いするんですね。でもケーキ屋さんからは毎回「今日中にお召し上がりください」と言われてしまって、ちょっと気まずいなと(笑)。


スギタ

ああ、そうですよね(笑)。「こっちのは明日食べるのに…」って。

安田

そうそう(笑)。でもね、実際翌日に食べても味は落ちていないし、もちろん腐っているわけでもない。だからそこまで「今日中に」と念を押さなくてもいいんじゃないかと思ってまして。


スギタ

まぁ、ケーキのような生菓子は、保健所から「消費期限は当日にしなくてはならない」と通達されているんですよ。そうルールで決められているので、ケーキ屋としてもそう言うしかないわけで。

安田

うーむ、なるほど。だとしても、なぜ保健所はそんな無茶なことを言うんでしょう(笑)。別に2〜3日は大丈夫だと思うんですけど。


スギタ

ちゃんと冷蔵庫に入れるなどして温度管理していれば、実際には仰る通りです。ただね、すべてのお客様がそうしてくれるとは限らないでしょう?

安田

ああ、確かにそうか。人によっては真夏に常温で放置してしまったりもするわけですね。そういう人を基準にするから、「当日消費」というルールにせざるを得ないと。ちなみに焼き菓子はどうなんでしょうか。生菓子と同じように保健所から「消費期限」の指導があるんですか?


スギタ

焼き菓子は「消費期限」ではなく「賞味期限」なんですが、こちらはお店によってマチマチですね。保健所からも特段の指導はないので。

安田

なるほど。やっぱり生菓子よりは緩いんですね。


スギタ

ええ。とはいえ、永遠に大丈夫ってことではないので、店側としてはちゃんと計算して期限をつけています。ちなみに期限は「水分量」や「糖度の高さ」によって決まってくるんですが、ウチは商品ごとに保健所の検査に出して、それをチェックしています。

安田

全商品を保健所で検査してもらうんですか? それってかなり時間も手間もかかりそうですけど…。どこのお店でもやっていることなんでしょうか。


スギタ

いやぁ…個人店ではしていないところも多いかもしれないですね。ちなみにウチでは「焼いてから1ヶ月後の商品」を検査に出して水分量や水分活性なんかをチェックしてもらっています。それで問題がなければ「この商品が日持ちするのは1ヶ月間」ということがわかるというわけです。

安田

ふ〜む、なるほど。そういう工程を経て、「賞味期限1ヶ月」と表記するわけですね。


スギタ

あ、いえいえ、「絶対大丈夫な日付が1ヶ月」ということがわかっただけなので、実際の賞味期限はその3分の2とか、2分の1程度にします。

安田

へぇ〜、そんなに短めに設定するんですね。まあ万が一何かがあった場合、営業にも支障が出ますもんね。


スギタ

そうなんですよ。だから賞味期限に関しては、安全性の観点からみても「絶対に大丈夫なライン」より短めに設定しています。

安田

なるほどなぁ。とはいえ、賞味期限って「美味しく食べられる期間」ってことですよね。そうなると、何をもって区切っているのかが疑問でもあって。「この期間を過ぎたら味が劣化するよ」ってことなんですか?


スギタ

うーん…正直なところ「味の劣化」で言えば、焼き立てが一番香りもよくて味も美味しいので。それを過ぎたらどんどん味は劣化していきます。

安田

そうですよねぇ。いくら「賞味期限内」とはいえ、焼き立ての状態には敵わないと。


スギタ

仰るとおりです。その状態をできるだけキープするために「脱酸素剤」と一緒に包装するんですが、それでもやっぱり焼き立てが一番美味しいですよね(笑)。つまり「賞味期限=お店として食感や味わいがなんとか納得できるレベル」で設定しているんじゃないかと思いますね。

安田

なるほど。要するに「ここまでには食べてもらいたい」というラインってことですね。ということは、「今日が賞味期限」のものを慌てて今日全部食べるというのは、あまり意味がないってことですか(笑)。


スギタ

そうですね、明日食べても変わらないと思います(笑)。先ほどもお伝えしたように、賞味期限に関してはちょっと余裕がありますから。

安田

なるほどなるほど。一方、消費期限は絶対に超えない方がいいわけですか?


スギタ

うーん、それも難しいところではあって。例えばショートケーキだったら、意外と翌日の方がスポンジとクリームがうまく馴染んで美味しく感じたりもしません?(笑)

安田

そうなんですよ(笑)。


スギタ

お店としては当然「当日中に食べてください」と言いますけど、そこは「絶対」ではないところもありますね。「夏の暑い日に長時間持ち歩いていた」とかでなければ、菌の数が増えるリスクもほとんどないですし。冬場だったら多少持ち帰りの時間が長くなってもあんまり気にしなくて大丈夫ですよ(笑)。

安田

それを聞いて安心しました(笑)。いつも「今日中に食べてください」って言われているのに翌日に食べているのがちょっと後ろめたかったんです(笑)。


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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