地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第43回 個人店が効率化よりも守るべきもの
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パン屋さんを始めることになった時に、調理済みの食材をたくさん使うことに驚いたと仰ってましたよね。
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そうなんですね(笑)。まぁたくさん店舗があるチェーン店なら、セントラルキッチンで作ったものを各店舗に持っていった方が効率的だよね、というのはわかるんです。でも、個人店までそうされちゃうと、ちょっとさみしい気がするんですよ。楽なのはわかるけど、もうちょっとこだわってほしいなと。
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そうそう。でも最近はそのシステムが個人経営の飲食店にも浸透していて、「個人店向けのミール販売業者」まで出ているようです。「あなたのお店のセントラルキッチン代わりにどうぞ」という触れ込みで、既製品が仕入れられるだけでなく、「こういうメニューを作ってほしい」という要望にも応じてくれるみたいで。
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そうなんですよ。だって、こだわりのありそうなお蕎麦屋さんに行っても、仕入れた麺を茹でただけで出されたりするわけでしょ。まぁ「ウチは麺のチョイスにこだわっているんだ」と言われたらそれまでなんですけど。
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本来であれば、自分たちでイチから作った方がコストも安いしおいしいはずなんです。でも人手が足りないし、仕入れた方がムラもないしロスも出ない。そう考えた結果なんでしょう。そして実は、それと同じことがケーキ屋さんでも起きていて。
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そうなんです。スポンジケーキを焼かずに冷凍モノを仕入れる店が増えています。クッキーは焼くだけの状態のものが売ってますし、砂糖をまぶして焼けばもうパルミエのできあがり、というものとか。
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そうかもしれません。クリームを絞って焼くだけでタルトができるような「時短商品」とでもいうようなものが、山のように作られてるんです。しかもすごい人気だそうで、メーカーは今24時間稼働でフル回転しているとか。
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近い話で、今大工さんも同じように工場でできあがったものを現場で組み立ててホッチキスのようなハリで打つだけ、という仕事が増えているそうなんです。確かに効率的で仕事のハードルも下がるわけですけど、逆にカンナをかけられないとか、ノコギリを使えない大工さんがどんどん増えていると。
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パティシエも一緒ですよ。例えばナッペという生クリームをきれいに塗る作業も、今はそれをやってくれる機械があるので、わざわざ覚えない。パティシエと言いながらナッペができないとか、クッキーを丸められないとか、マカロンを同じ大きさに絞り出せないとか、そういう人がめちゃくちゃ増えてますから。
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どこからがケーキ屋さんなのかわからなくなりますね。そういえば最近、フランチャイズのメロンパン専門店とかクロワッサン専門店とか増えてきてるじゃないですか。仕入れた生地をお店で焼くだけなんて味気ないなぁって思ってたんです。でも考えてみたらそれと変わらないのかもしれませんね。
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そうなんですよ。そういう専門店じゃない普通のパン屋でも、冷凍生地を仕入れて焼くだけで回してるってところが少なくない。人手が足りないから仕方ないんだとしても、そこまでいくと「いったい何のためにパン屋さんをやってるんだろう」と思っちゃいますよね。
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それにお客さんからしても、効率度外視で手をかけた料理が食べられそうだと期待して、個人店に行くわけじゃないですか。それが実は厨房でレンチンされたものが出てきていたら、ガッカリしてしまいますよね(笑)。
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めちゃくちゃわかります(笑)。そのガッカリ感がわかるからこそ、僕らは不器用なりに全部自分たちで作ってるわけなので。とはいえ、これからどんどん人件費も上がっていくし、どこかで取捨選択を迫られるのかなとも思いますけど。
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やっぱり「全て手作りしてます」っていうことをしっかり伝えていくことは大事でしょうね。そしてそれに見合うだけの価格にする。「手作りしているお店」と「仕入れて出すだけのお店」が、同じような価格帯で競争しているのは、どう考えても理不尽じゃないかと。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。