第58回 売れるのは「コンセプト先行」か「商品先行」か

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第58回 売れるのは「コンセプト先行」か「商品先行」か

安田

パンやケーキの商品開発というと、美味しいものを作ることも大事ですけど、いいコンセプトがないと売れないですよね。両方必要なんだと思うんですが、スギタさんが商品を作るときって、どちらを先に考えますか?


スギタ

僕の場合は両方のパターンがありますね。商品から入ることが多いですけど、コンセプトから入ることもあります。

安田

ほう、ケースバイケースだと。


スギタ

ええ。例えば「広島レモンマンジュ」は、味からではなく「広島レモンの魅力を存分に伝えたい」というところからスタートしました。つまりコンセプトの方が先なんです。

安田

なるほどなるほど。でも逆に商品先行のパターンもあると。


スギタ

そうですね。うちの食パンラスクも先に商品があったパターンですね。もともと作っていたラスクがすごく美味しくて、お客さんの評判もよかった。

安田

ははぁ、なるほど。私も大好きなあのラスクですね(笑)。そこに新たなコンセプトを設定したわけですか。


スギタ

そういうことです。手土産としても買ってもらえるように、見せ方やパッケージを変えまして。普通の透明の袋で売っていたときと比べると、「ギフト感」がすごくアップしましたね。

安田

なるほど、商品ありきで開発した好例ですね。私も商品開発をお手伝いする仕事をしていますが、コンセプト先行で設計することの方が多いんですね。つまり商品はまだない状態で考える。


スギタ

ああ、なるほど。できあがったコンセプトに沿って商品を作るわけですもんね。

安田

そうそう。ただ、もしかしたら順番が逆のほうがいいのかも、と思うこともあって。例えば食べ物だったら、「これは美味しい!」と思える商品がまずあって、そのあとに「どう見せてどう売るのか」という戦略を練る。そちらの方が自然なのかもなぁと。


スギタ

ああ、そう言われると、お店やブランドを立ち上げるときもそういう順番の方がしっくりきますね。「こういうお店にしたい」というより、「これを届けたい」から始まる方が自然というか。

安田

ええ。さらに言えば、コンセプトって真似されやすいんですよね。例えば「いきなり!ステーキ」も、ステーキを立ち食いで安く食べられるっていうコンセプトがウケて爆発的に流行った。でも似たような後発が出てきたらやっぱり失速してしまったじゃないですか。


スギタ

後発の「やっぱりステーキ」の方が美味しいなんて言われたりして。そう考えると、コンセプトから入って成功することもあるんでしょうけど、確かに難しいケースが多い気がしますね。

安田

そうなんですよ。だからやっぱり商品先行の方がいいんじゃないかなと。


スギタ

確かにいまあらためて考えてみても、うちの人気商品もそのパターンの方が多いですね。ロールケーキなんかは父の代からずっと作ってきたもので、もちろん美味しさにはもともと自信があったわけですが、そこに見せ方の工夫やネーミングを後付けして今の人気を保っている。

安田

うんうん。やっぱりそっちの方が自然なんですよ。ただ、かといってコンセプト先行がダメというわけでもない。実際コンセプト先行で売れる商品やサービスは多々あるわけで。

スギタ

結局は「欲しい」と思わせる力があるかどうかですよね。食べて美味しいのは当たり前で、それ以前に「手に取ってみたい」と思わせないといけない。今は情報がそこら中にあふれてるので、コンセプトの真新しさや作り込みがますます重要になっているとも感じます。

安田

ああ、確かにね。そう考えると、どちらを先行させるのがいいのかはさておき、やはり「商品力」と「コンセプト」はどちらも必要不可欠ということなんでしょうね。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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