地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第58回 売れるのは「コンセプト先行」か「商品先行」か

パンやケーキの商品開発というと、美味しいものを作ることも大事ですけど、いいコンセプトがないと売れないですよね。両方必要なんだと思うんですが、スギタさんが商品を作るときって、どちらを先に考えますか?

ええ。例えば「広島レモンマンジュ」は、味からではなく「広島レモンの魅力を存分に伝えたい」というところからスタートしました。つまりコンセプトの方が先なんです。

そうですね。うちの食パンラスクも先に商品があったパターンですね。もともと作っていたラスクがすごく美味しくて、お客さんの評判もよかった。

そうそう。ただ、もしかしたら順番が逆のほうがいいのかも、と思うこともあって。例えば食べ物だったら、「これは美味しい!」と思える商品がまずあって、そのあとに「どう見せてどう売るのか」という戦略を練る。そちらの方が自然なのかもなぁと。

ええ。さらに言えば、コンセプトって真似されやすいんですよね。例えば「いきなり!ステーキ」も、ステーキを立ち食いで安く食べられるっていうコンセプトがウケて爆発的に流行った。でも似たような後発が出てきたらやっぱり失速してしまったじゃないですか。

確かにいまあらためて考えてみても、うちの人気商品もそのパターンの方が多いですね。ロールケーキなんかは父の代からずっと作ってきたもので、もちろん美味しさにはもともと自信があったわけですが、そこに見せ方の工夫やネーミングを後付けして今の人気を保っている。

結局は「欲しい」と思わせる力があるかどうかですよね。食べて美味しいのは当たり前で、それ以前に「手に取ってみたい」と思わせないといけない。今は情報がそこら中にあふれてるので、コンセプトの真新しさや作り込みがますます重要になっているとも感じます。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。