第90回 「まだ建っていない家」からの景色を知る方法

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第90回 「まだ建っていない家」からの景色を知る方法

安田

中島さんは、「家が建つ前に図面をもとに庭を考える」わけじゃないですか。「完成した窓から見える景色を意識している」なんてことも仰っていました。でもそれって冷静に考えるとすごく難しくないですか? まだ何もない状態でどうやってイメージするんです?


中島

うーん、どうなんでしょう。「想像している」だけなんですけどね(笑)。家の建築図面を見ればある程度のイメージが湧くというか。

安田

いや〜さすがプロですね。私にはとても無理です(笑)。ということは中島さんは、頭の中に浮かんだその景色に応じて庭のデザインを考えていくわけですね。


中島

そうですね。景色だけじゃなく、お住まいになる方の過ごし方なんかも考えますね。たとえば最近はリビングとキッチンがつながっていることが多いので、料理をしている時に窓の外をどんなふうに見るかな、その時に何が見えたら嬉しいかなとか。

安田

は〜、すごい。でもそうか、家も庭も住む人ありきですもんね。


中島

そうなんです。そういう意味ではデザインの前に動線を考えます。direct nagomiのある岐阜は車が必須なので、駐車スペースをどう確保するかが最優先ですね。

安田

なるほどなるほど。確かに、どんなに素敵な庭ができたとしても、動線が悪ければストレスになっちゃいますもんね。ちなみに家の中から車が見えないように設計することが多いんですか?


中島

そうですね。車が見えすぎると生活感が出てしまうので、必要に応じて目隠しをして、庭と切り分けられる空間をつくるようにします。

安田

ふ〜む、なるほど。でも逆に「リビングから愛車を眺めたい」なんてニーズもありそうですけど。


中島

ああ、中にはいらっしゃいますよ。そういうときは窓の正面に車が見えるようデザインします。でも多くの方は見えないほうが落ち着くようですね。車だけじゃなくアルミの物置やフェンスなんかも適度に隠すことが多いです。

安田

ああ、なるほど。ということはまず動線を考え、目隠しの設計なんかを考え、その上で窓からの景色を考える感じですか。


中島

まさにそんな感じです。もちろん私のイメージだけで作るわけではなく、お客様へのヒアリングも重要です。庭でバーベキューをしたいという定番のご要望から、最近では「林にしたい」「庭で鳥を見たい」なんてご希望をいただくこともあります。

安田

へぇ、でも林を作るなんて、結構な広さがないと難しいですよね。


中島

敷地が40坪くらいでも、やろうと思えばできますよ。そこに鳥を呼び込むために、実のなる木を植えて……

安田

ああ、ブルーベリーの木を植えると鳥が実を食べに来ると以前仰ってましたもんね。虫が好きな人からの要望もあるんですか? セミに来てほしいとか。


中島

セミはあまり希望されないですね(笑)。でもカブトムシが寄ってきやすいからと、シマトネリコという木を植えたいという方はいらっしゃいました。

安田

へぇ、カブトムシが来る庭ですか。なんだかワクワクしてきますね(笑)。

中島

そうですよね。ただ大きくなりすぎてしまう種類の木なので、手入れを考えるとそこまで積極的にはお勧めしていませんが。

安田

なるほどなぁ。お客さんの希望を取り入れながら、見せ方も使い方もバランスよく整えていくわけですね。


中島

ええ。外からと中からで、それぞれどう見えるかという両方の視点で考えます。どの窓から見ても違和感のない景色を作りたいなと。

安田

ふむふむ。そこから「ここは見せたい」「ここは隠したい」みたいなところを調整していくと。

中島

そうですね。冬に落葉して視線が通ってしまうと困るので、季節問わず目隠しできるように常緑樹をうまく配置して。やっぱり四季が感じられることで、自然と庭に目が向くようになりますから。

安田

「花が咲いたからちょっと庭に出てみようか」なんて思える庭は最高ですよね。家にこもりきりよりずっといい。

中島

ええ。そのためにも、季節の変化を感じる仕掛けを取り入れるようにしています。

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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