第321回 朝礼・体操・掃除は有料と心得よ

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第321回「朝礼・体操・掃除は有料と心得よ」


安田

岐阜県岐南町の町役場で朝礼時間への報酬支払いが命じられました。

久野

始業時間の5分前に職員を集めて朝礼をやってたみたいですね。

安田

8時25分に出勤して、みんなで朝礼をやっていたそうです。3年分の手当と報酬で1092万円を支払えと。

久野

これは仕方ないでしょうね。時代の流れですよ。

安田

この流れは中小企業にも広まっていきますか。

久野

中小企業では「朝礼=労働時間」はもう常識ですね。行政の感覚が遅れているだけ。

安田

そうなんですか。

久野

朝礼やって「残業代を払わなくていい」と思っている人はどの業界にもいないです。時代が10年ぐらいズレてる。

安田

5分前に出社させたらお金がかかる時代なんですね。

久野

5分前に来ることに関しては労基署も何にも言わない。朝礼しちゃダメってことです。

安田

なるほど。朝礼をやったらそれはもう業務だろうと。

久野

これは早く来ることを否定しているわけではなくて。労基署の人も常識があって「会社員なんだから15分ぐらい前に来るのは当たり前ですよね」っていう感覚なんです。

安田

ほう。意外ですね。

久野

そこはとても常識的です。早く来て準備するのは本人の自由だけど、朝礼は「これ業務のスタートだよね」っていう認識です。

安田

それは朝礼だから?たとえばラジオ体操でもダメですか。

久野

ラジオ体操もダメでしょうね。みんなで一緒にやったら業務になります。

安田

本人が勝手にやる分にはいいと。

久野

それはもちろんOKです。

安田

そりゃそうですよね。そんなので残業代を払わされたら会社が潰れちゃう。

久野

業務命令としてやるのはダメってことです。朝礼とか、体操とか、掃除とか。

安田

うちの近所に朝早く公園の掃除をしている会社があるんですけど。社員さんが集まって。これも時間外手当を払わないと違法ってことですか?

久野

自由参加であれば問題ないと思います。

安田

みんな社名の入ったジャケットを着てやってます。企業ブランディングの一環じゃないですか。

久野

「社会貢献してますよ」ってやつですね。それは業務です。

安田

ですよね。でも報酬を払ってまで掃除させるかな。

久野

そういうコストを払ってでも経営が成り立つようにしなきゃいけない。そういう時代なんです。

安田

自発的に掃除する場合は払わなくていいんですよね?

久野

はい。うちも掃除は払ってないです。やってる人間もいれば、やってない人間もいるので。

安田

自分でやってねってことですか?

久野

自分の周りを掃除するぐらいは「人としてやってくださいね」ってことです。ただし「絶対にやる」というルールになれば、これはもう労働時間だと思います。

安田

時間外手当なんて払わずに朝礼をやっている中小企業が多いイメージですけど。もうそんなことないんですか。

久野

働き方改革以降は変わりましたね。飲み会が「労働時間ですか?」って言われちゃうんですから。まして朝礼なら尚更じゃないですか。

安田

そういう時代なんですね。常識が変わったというか。

久野

休憩時間に上司が話しかけると「これ労働時間じゃないの?」って思うのが今の若い子。

安田

就業時間中のタバコやトイレはどうなんですか?そこまで厳密にするなら「ここは払わなくていいじゃないか」って言いたくなりますけど。

久野

「トイレは労働時間に含む」というのが一般的な見解ですね。生理現象なので。タバコは本当に賛否あるんですけど。喫煙場所が職場から離れていたりしたら引いてもいいと思います。

安田

トイレにスマホを持ち込んで出てこない人もいますよ。

久野

いますね。それは常識的な範囲で判断することになります。

安田

ゆっくりトイレに入ってもいいのに、5分早く来るだけで時間外手当を払わないといけない。これが常識なんですね。

久野

常識なんですよ。

安田

でも8時半からオープンするのに8時半から朝礼するわけにもいかない。時間外に来させるしかないですよ。

久野

そもそも8時半勤務にしているのがおかしいんですよ。オープンする15分前からは勤務時間にするべきなんです。

安田

なるほど。

久野

病院でもよく相談を受けるんですけど。9時スタートなのに「9時業務開始は絶対ないですよ」って言います。

安田

昔はそれが当たり前でしたけどね。

久野

もう常識が変わったんです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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