第322回 7年で報酬は2倍になる!

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第322回「7年で報酬は2倍になる!」


安田

最低賃金が1500円になったら「4社に1社は対応できない」と。商工会議所が主張しておられます。

久野

2029年10月に1500円になると言われていて。逆算すると2025年から7.29%引き上げなくちゃいけないんです。

安田

え!毎年7%上げ続けるってことですか?

久野

そう。だからすごいんですよ。7.29%ずつ上げていくと400万の社員が530万になる。社会保険料を合わせると更に1割ぐらいコストが増えます。

安田

つまり企業負担は600万円弱になると。

久野

デジタルコストなんかも上がっているから、それだけじゃ済まないです。

安田

デジタルコストって何ですか?

久野

社員用のパソコンとか仕事に必要なサブスクの料金ですね。めちゃくちゃ上がってます。

安田

現代社会で仕事をやるには必須ですもんね。

久野

そうなんです。

安田

商工会議所いわく「2割ぐらいはもう廃業するんじゃないか」と。

久野

それは最低限のラインを言ってるだけじゃないですか。

安田

実際にはもっと廃業するってことですか?

久野

現場からどんどん人がいなくなってくわけですよ。賃金が安いところで働きたくないから。

安田

仮に1500円をクリアできたとしても人不足で倒産する会社が出てくると。

久野

そう思います。7.29%程度では人材を確保できない。でもよく考えたらこれが普通なんですよ。

安田

デフレの数十年間ずっと給料が上がっていないわけですからね。ちゃんと上がり続けていたら今頃1500円ぐらいにはなっているはずで。

久野

そう。「今まで楽をさせてもらっていた」と考えるしかない。

安田

今までが変だったということですね。

久野

はい。でも多くの経営者はそう思っていなくて。やっぱりデフレが長すぎたんでしょうね。

安田

この先確実に人件費は上がってきますよね。1人雇うのに年収500万は超える。まあ、それくらいは健全な気がしますけど。平均年収400万って日本人は安すぎますよ。

久野

給与を増やしたいと思っている社長しか生き残れないと思います。

安田

そうですよね。給料を増やせない会社は廃業するしかない。

久野

たぶん2割じゃ済まないでしょう。来年耐えられない会社が2割くらい。

安田

そこからどんどん増えていくと。

久野

現時点で人件費を7%上げて赤字になる会社は危ないと思います。

安田

1回上げて終わりじゃないですからね。毎年7%上げていかないと。

久野

しかも7%は最低ラインですから。最低ラインだと人が来ない。現場が成り立たなくなります。

安田

最低10%くらいは上げないといけないでしょうね。

久野

そうなんです。ただ10%ずつ上げていくと7年後には倍になります。

安田

夢があるじゃないですか。社員さんには。

久野

はい。年収500万が1000万になりますから。物価も10%は上がり続けないと思いますし。ただその時に上の人間がどうなるか。普通に考えれば管理職も倍にしないといけない。

安田

実力のある管理職は倍くらいになっていくでしょうね。社長に気に入られて上がってきたような人は現場と変わらなくなっちゃうかもしれません。

久野

そうですね。そもそも10%人件費を上げようと思ったら、売り上げを20%ぐらい上げないといけなくて。それができる管理職じゃないともう要らなくなる。管理を一生懸命やったところで利益が出ないので。

安田

とはいえクビにするわけにもいかないし。現場との差が無くなっていきそうな気がします。

久野

管理のデジタル化が進むと思います。出来るだけ「現場に払おう」という意識が高くなる。

安田

つまり現場と管理職の報酬が逆転しちゃうってことですか。

久野

プロスポーツはそんな感じじゃないですか。

安田

確かに。監督やコーチより選手の方が高いですよね。

久野

業績に直結しない管理職は減らしていかないと。もう生き残っていけない。

安田

また国が助成金とか出して延命するんじゃないですか。

久野

本音では「ゾンビ企業は減って然るべき」と思ってるでしょうけど。なぜかそういう会社に補助金や助成金を出し続けています。

安田

何のための延命なんでしょうか。

久野

本来は「準備する時間を作るため」なんでしょうけど。

安田

何も変わらないまま延命する会社が増えてますけど。

久野

どこかで決断する時が来るんじゃないですか。でないともう国が持たないですから。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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