「オモシロイを追求するブランディング会社」トゥモローゲート株式会社代表の西崎康平と、株式会社ワイキューブの代表として一世を風靡し、現在は株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表および境目研究家として活動する安田佳生の連載対談。個性派の2人が「めちゃくちゃに見える戦略の裏側」を語ります。
第77回 メガブランドはこの先、生き残れるのか

カルティエとかエルメスとか、いわゆる“メガブランド”ってありますよね。もともとは小さなカバン屋さんだったのに、世界的な存在になっていった。ただ今後は、“個人に最適化されたブランド”の方が、価値を持ってくるんじゃないかと思っていて。

そうそう。たとえばポルシェって、なんであんなに人気があるかっていうと、もちろんデザインや性能が好きっていう人もいると思いますが、やっぱり「みんなが知っていて、そこそこ高くて、乗ってたら“すごい”って言われる」という、その“評価される仕組み”があるからだと思うんですよ。

ああ、まさにトゥモローゲートさんの方向性ですよ。

はい。僕たちは「大きな会社になろう」と思っているわけではないし、かといって「安い会社でいい」とも思っていない。自分たちが「こういう会社づくりがしたい」と思えるものを、共感してくれるお客様とだけ取引していくというスタンスを取っています。

それによって濃いファンができて、結果として売上も上がって、利益も確保できて、事業が継続できるということですね。素晴らしいですよ。お客さんの数はそこまで多くなくても、強烈に「欲しい」と言ってくれる人に届けばいいわけですから。

まぁそうなんですけど、たとえばエルメスも30万のバッグとは別に、スカーフ1~2万円くらいの“入り口商品”を作っているわけですよ。そうやって少しでも新規顧客を取り込もうとするわけですが、でもみんなが使うようになればなるほど、ブランドのイメージって庶民的になってしまうというジレンマがあって。

そうそう。だから全体の売上は当然メガブランドの方が巨大なんだけど、たとえば手作りで年間5個しか作れないカバンを職人さんが一つひとつ仕上げていて、それが1つ300万円で売れたらどうだろうと。利益率で考えたらメガブランドより上かもしれない。

なるほどなるほど。確かにそうですよね。ともあれ、それはそれですごく難易度は高いと思うんです。無名の職人がバーキン以上に丁寧に作ったバッグを出したとしても、それが300万で売れるかというと、勝手に売れることは絶対にないと思いますし。

でも個人的には、「そんなの作られた演出だってわかってるじゃん」と感じてしまうんですよ(笑)。たとえばシャンパンも、有名で高級な銘柄が美味しいとは限らなくて、少量生産で小さな農場で作られてるやつの方が美味しかったりする。

でもそれって、安田さんがさっき言ったポルシェの話とも同じだと思うんですよ。100万円のシャンパンに対して、味そのものに100万払っている人がどれだけいるのかっていう。“注文した自分”への満足感だったり、“それを見てる周りの視線”が重要な人もいるのかもしれない。

そうですねぇ。もちろん安田さんの仰ることも一理あるなぁと思うんですが、10年後20年後にメガブランドの価値がなくなる、という風には思わないですね。メガブランド自身、時代に合わせてあれこれ戦略を変えてくると思いますし。

確かにそうですね。たとえば、ハーレーダビッドソンも、昔は“うるさい音”とか“ちょい悪”なカスタムバイクのイメージがあったじゃないですか。でも今は「健全な大型バイク」として、新たな顧客層向けのビジネスを展開してうまくいっている。
対談している二人
西崎康平(にしざき こうへい)
トゥモローゲート株式会社 代表取締役 最高経営責任者
1982年4月2日生まれ 福岡県出身。2005年 新卒で人材コンサルティング会社に入社し関西圏約500社の採用戦略を携わる。入社2年目25歳で大阪支社長、入社3年目26歳で執行役員に就任。その後2010年にトゥモローゲート株式会社を設立。企業理念を再設計しビジョンに向かう組織づくりをコンサルティングとデザインで提案する企業ブランディングにより、外見だけではなく中身からオモシロイ会社づくりを支援。2024年現在、X(Twitter)フォロワー数11万人・YouTubeチャンネル登録者数19万人とSNSでの発信も積極的に展開している。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。