第80回 「バカギュラリティ」の到来で、賢さが負ける?

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第80回 「バカギュラリティ」の到来で、賢さが負ける?

安田

今回も前回に続いて深い話になりそうなんですが(笑)、「シンギュラリティ」という概念をご存知でしょうか?


藤原

ええ。AIの知能が人間を超える瞬間のことですよね。

安田

そうです。AIの進化によって、社会の常識が根底から変わるような変革が起きる。人間の脳が担ってきた記憶や情報整理の役割が、もう必要なくなる時代になるんです。それが来たら人々はどう変化するんだろうとすごく気になって。


藤原

確かに。実際そういう時代がもうすぐそこまで来ていますし。

安田

ええ。それで私は「おバカな人の方が、賢い人より稼げるようになる時代が来る」という仮説を立てているんです。「シンギュラリティ」からヒントを得て、「バカギュラリティ」と呼んでいるんですが(笑)。


藤原

ははぁ、なるほど(笑)。素晴らしいネーミングですね。でも「おバカな人の方が稼げる」のはなぜです?

安田

これまでの社会では、賢い人が稼いできたわけです。でも人間って、そもそもおバカな行動を取る生き物ものじゃないですか。以前もお話しましたけど、賢い行動と愚かな行動を比べたら、圧倒的に後者の方が多い。


藤原

ええ。人間ってそういう生き物ですからね。

安田

例えば「米が高い」と文句を言いながら、カロリーオーバーのパンケーキに何千円も払ったり、「生活が苦しい」と言いつつ、コンビニでスイーツを買ってしまったり。そう考えると、真面目な商売の方がAIに最適化されやすいんだろうなと。実際、「もっと安くもっと便利に」ということなら、AIが完璧に計算してくれるわけです。


藤原

ああ、確かに。つまり真面目な仕事ほどAIに置き換えられやすいと。

安田

ええ。そうやって真面目な仕事がどんどんAIの担当になっていくと、人間がやるべき仕事って、むしろ「おバカなこと」になっていくんじゃないかと思うんです。「半分遊びのような仕事」というか。


藤原

なるほどなるほど。わかってきました。

安田

でしょう? AIには考えつかない、おバカな遊びのような仕事の方が価値を得ていく。その傾向がどんどん強まって、やがて完全に賢い人の収入を上回る瞬間が来る。「バカギュラリティ」って、そういう意味なんです。


藤原

は〜、すごく斬新な視点ですね。でも確かに、理にかなってる部分もある。

安田

野生動物は本能で生きているように見えて、必要以上に食べたりしませんよね。でも人間は、理性で食べているはずなのに、病気になるまで食べ続けてしまう。マラソンなんかもそうで、過酷すぎてむしろ健康に悪いと言われていても、走り続ける。そういう意味不明な生き物なんです。


藤原

そういう本来の姿を隠して、賢く真面目であろうとしてきた。でもその世界をAIが一気に終わらせてしまい、人間が「本来の姿」に戻っていくということですね。

安田

そういうことです! 実際その変化はもう始まっていると思っていて。真面目な仕事の筆頭であるエッセンシャルワーカーが、既に食えなくなってきているじゃないですか。


藤原

うーん、確かに。そして「半分遊び」みたいな仕事の人がガンガンに稼いでいる。

安田

そうそう。子どもがYouTubeでお菓子食べてるだけで、世界一の大金持ちになったりしている。実際にYouTuberの上位は子どもだったりします。そうなると、労働観そのものが根本から変わっていくと思うんです。お金を稼ぐことの意味が、今とはまったく違うものになる。


藤原

確かになぁ。いや、そう考えるとリアルですね。安田さんの仰るとおりのことが既に起きている。

安田

ええ。まあでも、これは自然なことだと思うんです。再三言っているように、人間は本来そういう生き物なわけで。旅行とかもそうですよね。地球の裏側なんて行かなくてもいいけど、何日もかけて、何十万何百万のお金を使ってでも行く。


藤原

そうですねぇ。なんだか「バカギュラリティ」が現実味を帯びてきましたね(笑)。でもその一方で、学校ではいまだに「真面目であること」が求められているのは気になります。今でも「先生の言うことを聞いて指示通りに動く人」が評価されている。

安田

それを守って大企業に入ることが成功モデルでしたからね。でも現実の社会では、終身雇用なんてもうとっくに崩れていて、大企業でリストラがバンバン行われている。だから教育の内容も合わせて変えなければならないけれど、間に合ってないんでしょうね。


藤原

なるほどなぁ。実際、東大や京大を出ても、学力以外の力がないと稼げない時代だって言いますもんね。実際、学力は高いんだけど社会では通用しないという人が増えてきている気がします。人間の愚かさを理解したうえで、どう動くかを考えられる、そんな人が稼げるようになっていくんでしょうね。

安田

まさにその通りだと思います。私の言っている「バカギュラリティ」も、頭が悪いことを肯定するわけじゃなくて、人間の愚かさや行動特性を理解したうえで、仕事をするということなんです。


藤原

なるほどなぁ。単にバカでいればいい、ということではないんですね。むしろ真面目に賢くやっていればよかった今までより難易度が高そうです(笑)。意味不明な人間を理解しなければならないわけですから。

安田

そうなんですよ(笑)。でも、この流れはもう止まらない。好む好まざるに関わらず、私達は「バカギュラリティ」を迎えるわけで、その瞬間を乗り越えられる「仕事」を見つけなければならないんです。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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