第103回 自然な庭は「計算と手間」でできている

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第103回 自然な庭は「計算と手間」でできている

安田

先日テレビで自衛隊の基地の横にあるイチョウ並木を見たんですが、まるで角刈りのように上も横もまっすぐ切られていて。


中島

ああ、ありますね。隣が基地だからというルールもあるんでしょうけど、ちょっと人工的すぎる気もします。

安田

そうですよね。フランスの宮殿の庭のような「人工的な刈り込みの美しさ」を感じなくもないですが、中島さん的にはどうなんだろうと気になっていたんです。


中島

「整っている」とは言えると思うんです。でも個人的にはもう少し自然な方が好みですね。ああいう刈り込みはトリマーという機械を使ってやるんですが、遠目には綺麗でも近くで見ると切り口が荒くて、不自然さを感じてしまうんですよ。

安田

ふ〜む、なるほど。でも足立美術館みたいに丸く刈り込まれた遠景も美しいですよね。


中島

ああ、そうですね。あれは「山並み」を模していて、コンセプトがはっきりしているんです。そういうのはいいなと思いますが、最近は「とりあえず刈る」風潮があって、それには少し違和感があります。

安田

なるほどなぁ。昔ながらの両手バサミで丁寧に刈れば、仕上がりはやっぱり全然違うんでしょうね。ちなみに最初は機械でざっくり切って、後から細かく手作業で整えることもあるんですか?


中島

やろうと思えばできます。でも僕はなるべく刈り込まず、自然に伸びた枝を少し透かして整える方法が好きですね。仕上がりの自然さや枝の動きや柔らかさも、手で切ったほうが断然綺麗なので。

安田

確かに、自然の中に「完璧な丸」や「まっすぐな壁」のような木は存在しないですもんね。


中島

ええ。自然な雰囲気を出すためには、「不完全さ」も必要なんです。もちろん人の手が入ってこそ美しい場合もありますが、「明らかに人の手が入りましたよ」と見えてしまうのは避けたいというか。

安田

ふむふむ。つまり「自然に見える人工」こそが理想ということですね。中の枝を透かすのも、人の手が入っているけど、自然の中で違和感がない仕上がりにするという。


中島

仰るとおりです。とはいえそれも口でいうほど簡単ではなくて。というのも、山から採ってきた木は、元々日当たりが弱い場所で育っているので、すごく繊細で綺麗な枝ぶりのものが多いんです。でもそれを日当たりのいい庭に植えると、伸び方が変わってきてしまう。

安田

えっ、ということはそれを元の姿に戻すように剪定するわけですか? すごい技術ですね。


中島

もちろん全く同じにはできませんが、なるべく本来の樹形を保てるように剪定します。ここに技術が必要になるんですよね。植える時点で日当たりや枝の向きなんかも計算しますしね。

安田

ははぁ、そこまで計算して植えてるんですね。すごいなあ。


中島

さらに言えば、大きな木のそばに曲がった枝の木を配置して、「この木があるから光を求めてこう伸びたんだな」と思わせる、みたいなマニアックな配置も考えます(笑)。

安田

すごい(笑)。それはもう、自然を再現する「ストーリー作り」ですね。ただ植えるんじゃなくて、組み合わせて「景色」を作ると。

中島

ええ、まさに。石を組んで景色を作る「石組み」と同じで、木も「組んで」植える感覚ですね。それが僕の目指す庭づくりです。

安田

なるほどなぁ。ある意味、究極の「人工の自然」というか。自然に見せるために、ひと手間もふた手間もかかっているわけですね。


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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