地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。
第76回 人生を豊かにする「四毒」との上手な付き合い方

健康に関する話題で気になっていることがありまして。最近流行っている「四毒(よんどく)」って言葉、ご存じですか?

へぇ、そうなんですか。お酒が1合でも体に悪い、というニュースはつい気になって読んでしまうんですが(笑)、これは知らなかったです。小麦に乳製品に砂糖……僕の仕事の根幹を揺るがすような話ですね(笑)。

そうなんです(笑)。まあでもね、まったくピンと来ないわけでもないんですよ。前回お話した「お酒と食品の相性」もそうですけど、昔は海外旅行もなかったはずで、何百年何千年とその地域のもので体ができてるわけですよ。つまり地場の食品と自分の肉体も密接な関係があった。

そうそう。私もこの年になると体の変化に敏感になってくるんで、米と納豆と味噌汁みたいな、いわゆる粗食が一番体に優しいなって感じるんですよ。とはいえたまにはローストビーフとバゲットも楽しみたいじゃないですか(笑)。

ええ。小麦が日本人の体質に合わないことがある、というのは僕もリアルな話だとは思います。ケーキも嗜好品ですから、毎日すごい量を食べ続けるのは絶対に良くない。でもたまに美味しいコーヒーと一緒に食べたりした時、それでしか満たされないものって絶対にあるじゃないですか。

そういえば、フルマラソンを走った直後に提供されるバナナやオレンジが、信じられないくらい美味しく感じるんですよ。普段食べても何とも思わないのに、「オレンジってこんなに美味しいの!」って衝撃を受けるというか。

ああ、それは間違いないですね。「空腹に勝るご馳走なし」と言いますし。逆の話で言うと、この間、大好きな寿司屋に友人を連れて行ったら、店に入るなり「俺、昨日寿司食べちゃったんだよな」とかって言うんですよ(笑)。

でしょう? お店の人もガッカリしちゃうじゃないですか。最高の状態で味わってもらうために、お店の人は必死で準備しているわけで。だから私も、最高の食事を楽しむためには、お腹を空かせていくとか、同じジャンルのものは数日食べないとかの努力はすべきだなと。

そう考えると四毒も、普段うまく節制することで、たまに摂ったときのきらめきが、めちゃくちゃ増すのかもしれないですね。たまに食べるならコンビニスイーツじゃなくて、ちゃんとしたパティスリーで、とかね。
対談している二人
スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役
1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。
安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。