第260回 いい人材を要するビジネスはもう無理

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第260回「いい人材を要するビジネスはもう無理」


安田

東京エレクトロンさんが初任給を4割引き上げるそうです。

久野

大卒初任給30万円ですね。

安田

久野さんが前々からおっしゃっていた「初任給30万時代」が現実的になってきました。

久野

もう恐ろしいですね。

安田

一方で教員採用試験の倍率が過去最低になっていまして。仕事が大変な割に給料も増えないし待遇も良くないってことで。産婦人科医さんも減っていて大変なことになってます。

久野

やってることが完全に時代と逆行していますから。このままだと人不足で崩壊します。

安田

憧れや社会的意義だけではもう無理ってことですね。

久野

医者も学校の先生も人間ですから。産婦人科医なんて24時間体制で、何かあったら責任は取らされるし、その割に報酬も良くないし。

安田

若い医学生はやりたがらないらしいです。皮膚科や小児科が人気みたいで。

久野

当然そうなっていきますよ。何も手を打たないと。

安田

大企業が初任給を30万に上げるとますます二極化が進んでいきますね。久野さんの会社でもいずれ初任給30万円を払う時が来ますか?

久野

絶対来ると思ってます。でも初任給って本当にきついですよ。1番下がその金額ってことは上がそれに見合っていかなきゃいけないわけですもん。

安田

残業代もそこをベースに発生しますからね。だけど上げていくしかないと。

久野

上げていかないともう人が採れないです。小学校の先生なんてすごく大変なのに初任給20万円ぐらいじゃないですか。

安田

そうですよね。

久野

そうすると優秀な若者はみんな一般企業に行ってしまう。行政がやっとそのことに気づいて、これから10年くらいかけて上げていくんじゃないでしょうか。

安田

公務員も上がってきましたよね。学校の先生もこれから上がっていくと。

久野

上げないともう教育が成り立たないので。ただそうなると中小企業は焼け野原みたいになっていきます。人が誰もいなくなっちゃう。

安田

「岸田さんの給料が上がる」って大騒ぎしてましたけど。別に岸田さん1人が上がるわけじゃなく国家公務員の給料を上げていこうってことですよね。

久野

上げないと。東大生もみんな官僚にならなくなってるじゃないですか。

安田

そうですよね。優秀な人に官僚になりたいって思ってもらわないと。

久野

東大を出て優秀な頭脳があれば、外資やベンチャーの方がよっぽど稼げるわけです。

安田

国のために働いても誰にも感謝されないし。先生になってもモンスターペアレンツに責められたり。日本人は自分で自分の首を絞めてますよね。

久野

稼ぎとかコスパが中心になり過ぎてますよ。本当はコスパだけじゃないんですけど。産婦人科医さんとか教師とか。

安田

コスパだけで仕事を選ぶわけじゃないと思うんですけど。ただコスパが悪すぎるのはもう「選ばれない十分条件」になってます。

久野

そうですよね。コスパがいい仕事に必ずしも人が集まるわけじゃないけど、コスパが悪いと辞める。これは間違いないです。

安田

だって生活できないですもん。エッセンシャルワークと呼ばれる仕事の報酬も増やしていかないと。社会が成り立たなくなってしまいます。

久野

そうですね。休みの日もずっと呼び出しのベルを持ちながら生活してる産婦人科医さんとか。すごく尊敬されて給料が高いっていう風にしていかないと。

安田

誰もやらなくなっちゃいますよ。

久野

学校の先生もそう。昔の先生は子供から信頼され、親から感謝され、生活も今よりずっと安定してた。

安田

定年までやり遂げたら退職金も年金もたくさんもらえて。

久野

生活が安定していないと「一生この仕事をやっていこう」って思わないですから。

安田

やっぱりある程度の待遇にしないと、やり甲斐だけでは人が採れないってことですね。

久野

最低限の待遇は必要不可欠ですね。

安田

その最低限の基準が初任給30万円になっていく。

久野

30万円が基準になっていくと思います。

安田

となると第二新卒の年収はさらに上がっていきますね。もう止まりません。

久野

大企業ぐらいしか元が取れなくなります。今は新卒でも3〜4年で辞めちゃうし。

安田

プロ野球選手のFA制度みたいに「入社から9年間は転職できない」とか決めないと。

久野

はい。10年間辞めないという前提じゃないと初任給30万円はきついです。

安田

給料を払いながら育てて残業代も30万を基準に払っていくわけですからね。

久野

そうなんですよ。

安田

もう中小企業は新卒採用しない方がいいですよ。とはいえ第二新卒もなかなか採れないし。

久野

「いい人が来たら業績が伸びる」というビジネスはもう中小企業には厳しいです。言われたことだけやってくれたら儲かるというビジネスにしないと。

安田

ちょっとぐらい儲かってもダメですよね。給料がどんどん上がっていくし。

久野

はい。普通の人材でけっこう儲かるビジネスを考えないと。中小企業は生き残れないです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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