第78回 シャトレーゼの「成長停止宣言」が意味するもの

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第78回 シャトレーゼの「成長停止宣言」が意味するもの

安田

そういえば、シャトレーゼのニュースはご覧になりましたか?  最近、いろいろと不祥事が報じられていまして。


スギタ

ええ、少し耳にしました。たしか外国人労働者への手当未払いや、下請け業者への不当な要求などがあったんですよね。

安田

そうそう。シャトレーゼはこの10年で売上を3倍、店舗数も2倍以上に伸ばしてきたんですが、先日社長がテレビで「成長を一旦止めます」と宣言したんですよ。


スギタ

へぇ! それは驚きですね。

安田

ええ。上場企業の社長は、会社を成長させ続けることが使命のようなものですから。それを「止める」と公言するのは、よほどのことだと思うんです。会社が成り立たなくなるほどの危機感の表れとも言える。


スギタ

いやぁ、確かに。一旦「成長」っていう軸から離れても、行き届いてないところを整備したいということなのかもしれませんね。

安田

そうかもしれません。そしてそれ自体は決して悪い判断じゃないと思うんですよ。


スギタ

同感です。むしろすごくいいことだと思いますね。長期的に考えれば、そこに着手することで将来の利益がより大きくなるのかもしれませんし。

安田

そうそう。これからの時代は、従業員や下請けに適正な対価を払い、しっかり休ませることが必須になってきますよね。これまでの利益至上主義の時代とは、ある意味経営の常識が180度変わってしまった。


スギタ

なるほど。シャトレーゼ単体の話ではないということですね。あらゆる企業がその変化に対応していく必要があると。

安田

そういうことです。今までのように、安さを追求して人件費や取引先への支払いを切り詰める、というやり方が通用しなくなっていく。実際ユニクロなんかはすごくて、シャトレーゼと同じ大量生産ビジネスでありながら、従業員の給料を上げ、待遇も改善し続けている。


スギタ

ああ、確かに。そういったことの重要性にいち早く気づいていたということですね。

安田

そうそう。従業員や取引先を大切にした上で、なおかつ安くてよいものを生み出している。そういう「イノベーション」が不可欠になっているんだと思います。


スギタ

なるほどなぁ。昔は「大量生産を支えるには下請けを犠牲にするのが当たり前」みたいな風潮がありましたけど、時代は変わったんですね。今はまだ人件費の安い海外に工場を建てたりしてますけど、それもいずれ限界が来るでしょうし。

安田

そうですね。だからこそ店舗も工場も、究極的には無人化に近づける算段をしているんでしょう。テクノロジーを活用して、100人がやっていた作業を5人でできるようにする。その分少なくなった従業員に手厚く給料を払っても、会社としては利益が出ますから。


スギタ

大手は絶対にそうなっていきますよね。むしろそうでないと生き残れない。

安田

そうなんですよ。従業員や取引先への支払いを増やせば、当然利益は減るわけで。かといっていきなり商品価格を何倍にも上げるわけにもいかない。

スギタ

うーん、確かに。これまで「安さ」というブランドイメージで売ってきた企業はなおさらそうですよね。

安田

そうなんです。いくらユニクロの商品がよくても、今の倍の値段になったら誰も買わなくなってしまうのと同じですよ。


スギタ

ああ、確かに。件のシャトレーゼも、「安くて美味しい」というイメージが定着してますもんね。客層も、僕らのお店ともまた違う気がしますし。

安田

だからこそ大手になればなるほど、省人化や無人化を進めざるを得ない。実際、ケーキ作りも技術的にはかなり自動化できそうな気がしますよね。

スギタ

最近の技術の進歩はすごいですからね。例えば巨大なシート状のケーキをウォーターカッターで好きな形に切り分ける技術なんかも既にありますし。先行投資は大きいですが、やろうと思えばロボットによる大量生産も可能になるでしょう。

安田

やっぱりそうですよね。だとすれば、シャトレーゼが今「成長を止める」と言っているのは、次の成長に向けた準備期間なのかもしれない。次に舵を切るときは、全く違うビジネスモデルになっている可能性もありますよ。

スギタ

確かになぁ。大手だからこその難しさもあるでしょうし、すごく興味深いですね。

安田

ええ。一度失った信頼を取り戻すのは大変ですから。風評被害で一気に経営が傾く可能性もある。今後の動向に注目したいですね。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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