第109回 文化の違いを乗り越える、グローバル時代の庭づくり

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第109回 文化の違いを乗り越える、グローバル時代の庭づくり

安田

最近、インバウンドの影響もあって日本に住む外国人の方がどんどん増えていますよね。それに伴って街の景色も変化しているように感じるんですよ。文化が違えば家の好みや庭の好みも違ってくるから、当然と言えば当然なんですけど。


中島

そうですね。庭に対する考え方や使い方も、国や文化によって本当に様々で。我々も日々勉強です。

安田

そのあたりはどうされているんです? 施主さんの希望を最大限に尊重する、というのが中島さんのスタイルですよね。とはいえ異文化のデザインをそのまま持ち込むと、日本の街並みから浮いてしまいそうです。


中島

もちろん施主様のご希望が第一ですが、同時に「お庭が地域全体の景観の一部である」という意識も大切にしています。その両面から考えていきますね。

安田

ふーむ。でもそれを両立させるって、かなり難しそうですけど。何かコツがあるんですか?


中島

僕は「二つの視点」で考えていくことが多いですね。つまり「家の中から見たお庭」と「外の道から見たお庭」。

安田

ほう? つまり中からと外からで違った印象のお庭にすると?


中島

そういうことですね。家の中からはその方の国の文化や好みに近い景色に、外から見れば街並みに自然と溶け込むようなデザインになっているという。

安田

そんなことができるんですか? 中から見たら異国情緒あふれる庭なのに、外から見たら日本の街並みに馴染んでいるなんて。まるで魔法のようじゃないですか(笑)。


中島

笑。見せ方次第で実現できますよ。外からの視線を適度に遮るように木を配置すれば、目隠しもできるし、美しい街の景色の一部にもなれるんです。

安田

なるほど! 外からは木々でやわらかく覆うことで、中の様子が直接は見えないようにするわけですね。そうすれば、住む人は外からの視線を気にすることなく、自分たちの空間を心ゆくまで楽しめると。


中島

ええ。プライベートな空間は守りつつ、外に対しては圧迫感を与えない。そういうバランスを大切にしています。これは庭だけじゃなく家も同じで、個性的なデザインの建物だったとしても、木々でやんわりと覆ってあげれば、街の景観には溶け込んでくれるので。

安田

は〜、なるほど。庭の木々で印象をコントロールするというのは素晴らしいアイデアですね。ちなみに岐阜のあたりでは、外国人の方が家を建てるケースは増えていますか?


中島

注文住宅を建てるというよりは、建売住宅や中古物件を購入されるケースが多い印象です。だから建物が極端に異質ということはあまりないかもしれません。それよりも、文化の違いからくる生活音などが話題になることの方が多いですね。

安田

ああ、人を招いてパーティーをするのが好きな文化もありますからね。そうなると、まだ中島さんのような職人さんに庭づくりを依頼する、という段階には至っていないのか。


中島

そうですね。今のところは、まだそういったご依頼は少ないです。

安田

でも今後は、経営者などの富裕層の方が家族連れで移住してくるケースも増えると思うんです。日本で子育てをしたいと考える方も多いようですし。そうなったら「ぜひ中島さんにお庭をお願いしたい」という依頼が来るんじゃないですかね。

中島

そうなったら、職人としてはすごく嬉しいですね。これまでどんな環境で暮らしてこられたのか、どんな文化を大事にしているかをしっかりお聞きして、その方の人生に寄り添うようなお庭を作りたいです。

安田

ルーツを大切にしながら、日本の暮らしにもフィットする庭。まさに唯一無二の空間になりそうです。素晴らしいですね。


中島

ありがとうございます。建物の雰囲気とも調和させながら、中からの景色は故郷を思い出すような、あるいは新しい日本の暮らしへの期待が膨らむような、そんな庭を作りたいです。

安田

いいですねぇ。日本が好きで移住してくる方なら、きっと日本の美意識も尊重してくださるでしょうし。異文化のデザインを取り入れつつ、地域にも配慮した美しい庭。そんな新しい庭のスタイルが、これから日本各地で生まれてくるのかもしれません。

中島

最近は物価が上がっていることもあって、庭に石をふんだんに使うようなこだわった造りを希望する方が減ってきているんです。もし海外の方が「日本の石を使った本格的な庭」を望んでくださるなら嬉しいですね。

安田

確かに。日本の伝統技術や素材の素晴らしさを、海外の方に再発見してもらう絶好の機会になりますよ。ぜひ「こんなに素敵な庭が日本で作れますよ」と、世界に向けてアピールしていきましょう。


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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