第96回 お金を払う側にも品格が問われる時代へ

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第96回 お金を払う側にも品格が問われる時代へ

安田

藤原さんのメルマガにあった「知性」の話に感銘を受けまして。「知性ある消費者」は、お金を払うだけでなくお店の人に「内的報酬」も与える存在だという。


藤原

ああ、ありがとうございます。

安田

内的報酬というと、つい会社と社員の関係で考えがちですが、お店とお客さんの関係でも同じことが言えるんだ、と気づかされました。お客さんから感謝や承認といった内的報酬をもらえたら、店員さんももっと頑張れますもんね。


藤原

そうなんです。逆に言えば、本当にいいお店って、お客様や取引先からも金銭的な対価(外的報酬)だけでなく、そうした内的報酬を受け取れているものなんです。

安田

そこが確かになぁ、と納得しまして。でもそのためには、ある程度「顧客を選ぶ」ことも必要になってきませんか?


藤原

そうですね。言い方を変えれば、「自社にとって好ましくないお客様が、自然と寄り付かなくなるような会社独自の文化や仕組みを醸成していく」ということですよね。

安田

ああ、なるほど。そこを意図的にやっていく必要があるわけですね。確かにお店の雰囲気とか文化みたいなものが、自然と客をフィルタリングしていますもんね。落ち着いたお店には落ち着いた客が集まるわけで。


藤原

そうそう。素敵な雰囲気のお店だと、客側にも「この雰囲気を壊したくない」って心理が働くんですよね。

安田

わかります。確かにお金を払ってはいるけれど、それ以上に価値のある雰囲気や料理を味わえるわけですから、感謝してしかるべきで。


藤原

そういう考え方になれるということが素晴らしいですよね。私、知性というのはそういうことだと思うんですよ。単に学歴が高いとか、頭の回転が速いということではない。私がメルマガで書きたかったのも、そういった「品格」や「美意識」に近いもので。

安田

なるほどなぁ。それってつまり、「相手の立場を想像し、相手が理解できる言葉を選んでコミュニケーションが取れる」という能力ですよね。それができないお客さんをたまに見かけますけど、普段どんな生活をしているんだろうと不思議になります。自分だってお金の受け取り手になる場面があるはずなのに。


藤原

うーん、もしかすると日常生活で何かしら抑圧された生活を送っているのかもしれませんね。だから「お金を払う時くらいは王様でいたい」という欲求が表に出てしまう。

安田

ああ、なるほど。でもいますよね、ビジネスですごく成功しているのに飲食店とかで横柄になる人。あれもそういう心理なんですかね。


藤原

そういう方はおそらくビジネスを「我慢の対価」として捉えているんでしょう。お客様からの無理な要望に応え続けているのかもしれない。だから自分が客の立場になった時は、「俺のワガママを聞くのがお前らの仕事だ」と思ってしまう。

安田

ふ〜む。きっと自社の社員にも同じように思うんでしょうね。「給料をもらっているんだから我慢して当然だ」と。


藤原

そうだと思います。特に夜のお店に行くと、そういうタイプの人が多いですよね。見ていて不快なので、最近はもうそういう場所には全く行かなくなりましたけど。

安田

私も一緒です。日頃の鬱憤を晴らすような、不健全な消費の仕方のように感じてしまって。


藤原

そうなんですよ。「知性ある消費」とは真逆の行動です。

安田

でも最近、日本でも少しずつ潮目が変わってきましたよね。「お客様は神様です」という時代ではなくなりつつあるというか。

藤原

人材不足の影響もあるんでしょうね。今はお客さんより従業員のほうが価値が高い。理不尽な客のせいで従業員が辞めてしまったら、とんでもない損失になるわけで。

安田

そうですよね。結果、「うちはこういう客はお断りです」と表明する店も増えてきました。ようやくお金を払う側の人間性も問われる、健全な時代になってきたのかもしれませんね。

藤原

そうですねぇ。まぁ逆に「うちは横柄なお客様を大歓迎しますよ」という、ニッチなビジネスも生まれるかもしれませんけど(笑)。

安田

ああ、確かに。「殴られ屋」みたいなね(笑)。

藤原

そうそう(笑)。

安田

まぁでもそういうビジネスに魅力を感じる人って、そもそも人から感謝されたり認められたりすること自体に、あまり価値を感じていないんじゃないですかね。だからこそ自分が誰かに感謝を伝えることにも、あまり関心がないというか。

藤原

そうなんでしょうね。個人的にはすごくもったいないなと思いますよ。例えば社長が給料以外の報酬、つまり感謝や承認をスタッフに与えたら、全体のパフォーマンスは向上するわけじゃないですか。

安田

そうか。社長も顧客も、お金を払う側であることは共通してますもんね。

藤原

そうなんですよ。内的報酬を与えた方が業績も良くなるんだと気づけば、組織は大きく変わるんです。

安田

結局、巡り巡ってすべて自分のためになると。「情けは人のためならず」ならぬ「内的報酬は人のためならず」ですね。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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