「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。
第12回 「右肩上がりはもう古い」
前回第11回は「お金に囚われているのは誰」
平成が終わるじゃないですか。
はい。終わりますね。
昭和って右肩上がりだったでしょ。で、平成は「魔の横ばい時代」って言われてまして。
「失われた何十年」とか、ずっと言われてきましたからね。
この間テレビを観てたら、平成しか知らない人たちが出てまして。
平成生まれではなく?
はい。平成10年以降に社会人になった人たち。彼らは昭和との比較で平成を語られるのが、とても腑に落ちないそうです。
平成には平成なりの良さがあると?
良さもあるし、悪さもあると。
当たり前ですよね。
当たり前なんですけど、言われてみれば「昭和と比較せず平成を語る人」ってあまりいないんですよ。
確かに。
国のトップも、マスコミのトップも、みんな昭和を経験した人間ばかりなんですよ。
テレビや新聞でコメントする人たちが、昭和のじいさんばかりだと。
そうなんですよ。政策を考える人も、番組を考える人も、コメントする人も、みんな頭が昭和のまま。
「右肩上がりが当たり前」みたいな感覚が、完全に固定化していると。
そうなんですよ。「横ばい=悪」という図式が大前提。
「昭和と比較せずに平成を語れ」と言いたいわけですね。
その通りなんですよ。ちなみに平たく成ると書いて平成じゃないですか。
いみじくも。
成長できなかった時代ではなく「成長しないことを選択した時代」とも言えるんじゃないかと思うんです。
成長しないことを自ら選択したと?
まあ自覚はないでしょうけど。たとえば最近の若者って、デブになるほど見境なく食べないじゃないですか。
昭和のサラリーマンはガツガツ食べたイメージですよね。20〜30代ですでにちょっとお腹出てるみたいな。
それが社会人のイメージだったじゃないですか。でも今の若い子は太るの嫌がるし、必要以上に高い物とかも持ちたがらない。
昔はみんな、無理してブランド品を買ってましたもんね。
物に執着しなくなった時代とも言えるし、一段成長した時代とも言える。
GDPで計れない「見えない資産」も増えましたよ。ITインフラが誕生して、リテラシーも高まって、SNSも普及した。
テクノロジーに関しては、完全にそうですよね。100倍以上はすごくなってます。
平成って、いろんなものがコツコツと蓄積された「準備期間」みたいな気がします。
次の時代に向けての準備期間ですか?
何となく、そんな感じがしますね。
昭和の人たちって、ものを捨てなかったじゃないですか。だから家の中にいらないものがいっぱいあった。
ものが無いところから、スタートしていますんで。
平成は完全に断捨離の時代ですよね。余計なものを持たない時代。
完全にそっちに向かってますね。
「持てば持つほどハッピー」だった時代から、「これだけあれば十分」という時代になって、最近は「必要以上に持つことが不快」な時代。
所有するという感覚がなくなってきてますね。今はレンタルとかシェアで十分。
ですよね。最低限の持ち物でいい。1個買ったら1個捨てるとか。ほしい人にあげるとか。安く売るとか。
身軽に生きていくほうが、ずっとハッピーですよ。
でもそれって、単に僕らが年をとったからですかね?全体の空気として、変わってきてる気がするんですけど。
それは間違いないでしょうね。全体として価値観が変化してるんですよ。
ですよね。
大手の社員さんでも仕事観みたいなのもが、変わってきてます。
大手の社員さんですか?
会社に雇用されることに、こだわらない人が増えてます。
そうなんですか?
はい、とくに若い人は。プロジェクトでぱっと集まって、仕事が終わったら解散みたいな。「そういう働き方がしたいです」って言ってますね。
雇う側にも変化は必要ですよね。雇われる側はもう目が覚めちゃってますからね。
間違いないです。
社長というだけで尊敬してくれたり、「給料いただけるだけでありがたい」みたいな人、もういませんから。
いませんね。それどころか、ちょっと飲みに誘っただけでパワハラとか言われる。
雇う側のほうが気を使う時代ですよ。社員が増えたストレスで「やめてたタバコをまた吸い始めた」って社長さんがいます。
そういうシーンは、よく見ますね。
物を持たない時代には、社員も持たないほうがいいのかも。
流動性が高まったんで、持たないほうがフットワーク良くて快適なんですよ。旅行のときの荷物と一緒。
海外旅行に慣れてなかった時代って、ものすごい荷物を持っていってましたもんね。
今は、必要だったら何でも買えますから。洗濯もできるし、衣類なんかそんなに必要ない。
セブンイレブンだってありますからね。じゃあ、今は社員も持たないほうがいい?
必要な時に、必要な人だけ集めればいいんですよ。プロジェクト的に。
昔、自社が20人くらいだった頃、社員100人の社長が羨ましくて。すごく負けてる気がしたんです。
分かります。私も社員を増やしたい時期がありました。でも今は何とも思わないですね。
私もです。むしろ「社員がいない優越感」みたいなのがあります。社員を雇うのって大変なので。
安田さんは経験者ですからね。
でもそれが負け惜しみなのか、世の中全体の空気なのか、どっちだと思います?
空気だと思いますね。
それって、テクノロジーの影響だと思いますか?
一番力が強いところが、弱くなってきた影響でしょうね。
一番強いところ?
一番強いところって国家じゃないですか。お金も中央銀行が牛耳ってるわけですから。
まあ、最大権力者ですよね。
でも黒田さんが色々仕掛けても、あんまりインパクトないでしょ。総理大臣だって「総理大臣、ふーん」みたいな感じじゃないですか。
昔だったら「末は博士か大臣か」みたいな。
「将来は大臣になりたいです!」とか「総理大臣目指します!」なんてちびっ子、最近見たことない。
確かに。
大きなものに紐付くんじゃなくて、自分の世界を大事にしてる感じがしますね。
自立しているというか、一人ひとりが自分の価値観を優先してますよね。国家からも、会社からも、距離を置いてる感じ。
国家とか、会社とか、強かったところの求心力が弱くなってるんですよ。
「じゃぶじゃぶ余らせたら金を使うはずだ」みたいな感じでやったけど、誰も使わないっていう。
「中央の意向」みたいなものの影響力が落ちてるんですよ、確実に。
「不安じゃなかったら、高いものをどんどん買うのか」っていったら、そんなふうにはならないですよね。
ならないですね。
贅沢はしないけど、みんな結構楽しんでますよね。高い服は着てないけどオシャレだし。大人になったっていうか。
それが平成という時代だったんじゃないですか。
この次の時代はどうですか。右肩上がりに戻りますか?
右肩上がりとか、横ばいとかってのは、国家的に見た話なんですよ。
経済だけの話ですもんね。
その軸じゃない世界に、なるんじゃないですか。次の時代は。
右肩上がりとか、横ばいだとかっていう視点自体が、意味をなさなくなると。
国家の力がどんどん弱くなって、国家的な視点や価値観も意味をなさなくなってくる。そんな気がしますね。
…次回へ続く…