変と不変の取説 第20回「日本人の境目」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第20回 「日本人の境目」

前回第19回は「北朝鮮は崩壊するのか」

安田

泉さんはダルビッシュ知ってます?メジャーリーガーの。

はい、知ってます。

安田

Twitterで「あいつは日本人じゃない」みたいなことを言われて、「えらく傷ついた」っていう。

そこは詳しく知りません。

安田

ハーフなんですよ、ダルビッシュって。

そうですよね。

安田

確かお父さんがイラン人で、お母さんが日本人なんですよね。で、日本生まれの日本育ちで、国籍も日本人なわけです。

にも関わらず、日本人じゃないと?

安田

ダルビッシュいわく「日本人として生まれて、日本人として育って、“日本人じゃない”って言われるのは、すごいショック」だって。

そりゃあそうでしょうね。

安田

で、彼がツイートしたんです。「そもそも100パーセント純血な日本人なんているのか?」って。

言いたいことは、よく分かりますね。

安田

私も「なるほどな」と思いまして。いま、新宿区の子どもの4人に1人がハーフなんだそうです。

そうらしいですね。

安田

これから、こういう話題ってどんどん増えて来ると思うんですよね。

ですね。

安田

泉さんはどう思いますか?本当に100パーセント純血の日本人っているんですか?

どこから「純血」っていうんですかね。どの時代から考えるかで、ぜんぜん違いますからね。

安田

そもそも日本人っていうのは、いつ始まったんですか?

むかし、日本って大陸とつながってたじゃないですか。

安田

つながってたんですか?

つながってました。

安田

じゃあ、そのころに大陸から渡って来た?

そのころ大陸からやって来た人と、あとから渡来人として渡ってきた人と。

安田

そこが日本人の原点ですか?

最初から、いろんな人が混じり合ってるんですよ。

安田

いろんな人?

ロシアのほうから来た人と、東南アジアから来た人と、朝鮮から来た人と。

安田

なるほど。

今、遺伝子解析とかされてますけど。

安田

モンゴルの人に顔が似てるじゃないですか?

似てますよね。

安田

それはモンゴルの人も、朝鮮半島から渡って来たんですかね?

モンゴルは北のほうですからね。

安田

じゃあ、アイヌの人とかと一緒に、ロシアのほうから渡って来た?

東南アジアからも来てるみたいなので。

安田

そんなに、いろんなとこから来てるんですか?

はい。沖縄を伝わって、鹿児島に入った人もいますし。

安田

ということは、純血の大和民族なんて、最初からいないんじゃないですか?

どの時代で区切るのかによりますね。

安田

確かに。第二次大戦前後に朝鮮半島から来た人を、差別したりするじゃないですか?

はい。

安田

でもじつは、もっと1000年くらい前に、朝鮮半島から陶芸の師匠みたいな人が来てますよね。

来ていて、結構偉い家柄になってたりします。

安田

ですよね。

この前ドナルド・キーンさんが亡くなられましたけど、彼も日本人になりました。

安田

誰ですか?ドナルド・キーンさん?

ドナルド・キーンさんって、もともと米軍にいる時に、日本のことをすごく勉強してて。

安田

それは敵国として?

はい。で、勉強してるうちに好きになって、戦後日本に住み着いたんですよ。

安田

何をやった人なんですか?

東大の教授だったと思います。日本のあらゆる文芸人たちと交流して、日本の文化を世界に発信し続けた人。

安田

へえ。

で、2011年3月11日の震災以降に、「やっぱ僕は日本人だ」ということで日本国籍をとられたみたいな。たぶん奥さんも日本人じゃないかな。

安田

でも、日本人って、移民に対してあまり寛容じゃないですよね?

寛容じゃない人が多いですね。

安田

大坂なおみさんなんかも「二重国籍は絶対だめだ」ってなるじゃないですか。

そこは厳しいですね、日本は。

安田

アメリカで生まれたらアメリカ国籍もらえますけど、日本って日本人の血統にこだわりますよね。

歴史をたどれば、完全に混血なんですけどね。

安田

そうですよね。なのに、なぜ「血」にこだわるんですか?天皇陛下の一系……なんでしたっけ。

万世一系。

安田

そこからすべて枝分かれしたと、本気で思ってるんですかね?

いや、一部の人しか、思ってないでしょうね。

安田

じゃあ、なぜ純血にこだわるんでしょう?

日本はまだ、血縁社会が強いんですよね、たぶん。

安田

でもこれからは新宿区のように、ハーフの子どもが増えていきますよね?

どんどん増えるでしょうね。

安田

さらに次のクォーター世代になったら、ものすごい数になりますよ。そうなったら変わるんですかね?

大多数がそっちになると、変わるでしょうね。

安田

テレビ見てても、もはやハーフタレントなんて、珍しくもなんともないじゃないですか。

もう普通ですよ。

安田

普通ですよね。新宿区じゃなくても、小学校のクラスにハーフがいるのは普通みたいです。

もう、ぜんぜん普通ですね。

安田

いまテレビに出てるハーフの人たちって「子どものころに差別を受けた」って言うじゃないですか。

みんな言ってますね。

安田

いまはどうなんですかね?やっぱり差別受けてるんですかね?

いや、受けてないと思います。

安田

子どもたちはもう、そういうのを超越してるんですかね?

はい。うちの娘はトルコ人と日本人のハーフの友達がいますし、息子も部活でハーフのチームメイトがいます。

安田

もう既に、普通なんですね。

地方の1万人ぐらいの街ですが、もう普通ですね。

安田

大坂なおみ選手とか、強くなった途端に「日本人だ」みたいになってますけど。

スポーツの世界は、活躍するハーフの人たちが目立ってきましたね。

安田

ハンマー投げの室伏さんとか、最近だったらバスケの八村選手とか。柔道でも、相撲でも、ラグビーでも、ハーフの選手が目立ってます。

走りのケンブリッジ飛鳥君なんかも、そうですよね。

安田

やっぱり身体能力で言ったら、ハーフの人って凄いですよね。

そうなんですよ。

安田

そういう人たちが、どんどん目立っていったら、一気に変わる可能性もありますね。

あとは意思決定するところに出て来て欲しいですね。

安田

意思決定するところ?

政治家とか、市長さんとか、会社の社長とか。

安田

確かに!ハーフの人が総理大臣になったら、古い慣習とか劇的に変わりそうですよね。

…次回へ続く…


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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