第22回「中国の野心と日本の未来」

この記事について
税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第22回「中国の野心と日本の未来」

安田

中国に行ってましたよね。なんでしたっけ、ドローンの街?

久野

はい。深センです。

安田

世界の最先端でしたっけ。

久野

「世界でいちばん成長してる街」らしいです。

安田

でもトランプに言わせれば、中国って「出資させて、会社つくらせて、技術だけ盗んで、自分でやっちゃう」技術泥棒だ!と。

久野

まあ、確かにそういう部分もあります。

安田

ドローンはちゃんと自分の技術なんですか?それとも盗んだ技術なんですか?

久野

開発したのはアメリカですからね。元々。

安田

じゃあ、何がすごいんですか?中国って。

久野

たとえば深センって「紅いシリコンバレー」って言われてまして。

安田

紅いシリコンバレー?

久野

はい。すごい技術もたくさんあるんですよ。

安田

電気自動車とか?あるいはキャッシュレス社会とか?日本より進んでますよね。

久野

その分野は間違いなく最先端ですね。

安田

じゃあやっぱり技術は進んでる。アメリカが言いがかりつけてるだけ?

久野

毎年60万人の留学生を中国は排出してるんですけど。そのうち48万人がアメリカで学んで帰ってくるらしいです。

安田

じゃあトランプの主張も一理あると。

久野

結局、アメリカで学んだ人が中国に帰って起業するので。そういう要素もあるのかなと思います。

安田

優秀な人材を受け入れるのが、アメリカの良さでもありますからね。

久野

アメリカと中国の違いは、深セン見てると感じます。

安田

どう違うんですか。

久野

深センは全体像がぜんぜん見えないんですよ。実験都市みたいな感じで「何でもかんでもとりあえずやってみる」みたいな感覚。

安田

それが共産主義の強さでもありますよね。トップダウンで無理やりやれちゃうっていう。

久野

ありますね、本当に。すごいですよ。道路も5車線で、元々デカくするためにつくったような街。交差点もほとんど渋滞しない。

安田

へぇ。まず結論ありきで街ができちゃうって、凄いですね。

久野

地下鉄も十何本走ってるんですけど、地下鉄って普通あとから作るじゃないですか。

安田

ですね。土地がなくなって仕方なく地下に作るみたいな。

久野

でも中国では、はじめからやってて。たぶんアメリカの都市とか、ああいうのを全部研究してると思うんですよ。

安田

最終的にはどうなると思いますか?米中貿易戦争の行方は。続けていけば絶対にアメリカが勝つだろうと言われてますけど。

久野

普通に考えたらそうなりますよね。

安田

アメリカが中国から買ってる商品は、他の国でも代替えできるらしいです。

久野

そうですよね。

安田

一方で中国が輸入してるアメリカの商品は、アメリカからしか買えない。だから結局、中国は折れるしかないんじゃないかと言われてます。

久野

私はそんなに単純じゃないと思います。中国にはもっと底力があると思う。

安田

ありますか?底力。

久野

中国って、まだ田舎のほうに行くと、安い労働力がいくらでもあるんですよ。

安田

労働力はありますけど技術はどうですか。もう自前でやれるんですか?

久野

HUAWEIなんかも、今まではシリコンバレーに頼らないと基幹部品ができなかったんですけど。新しいイノベーションが生まれるかもしれない。

安田

もう、そういうレベルなんですか?

久野

まだ、できないと思います。ただ中国人って、もっと長いスパンで見てる気がする。

安田

たしかに。アメリカとは歴史の長さが違いますもんね。アメリカは200年ちょい。

久野

中国は何千年の話なので。考えているスパンが違います。

安田

じゃあ「100年200年かけて世界の覇権をとる」ぐらいに考えてるんですかね。

久野

そんな感じがしますけど。「今は日本に負けてるけど、必ず長い歴史の中では中国人が勝つ」って合言葉になってますから。

安田

日本はまだ勝ってるんですか?中国に。

久野

上海も深センも行きましたけど、国民のマインド的には中国人のほうが凄いですね。

安田

それは成長意欲みたいなものですか?

久野

成長意欲とチャレンジ精神。過去の貯金で「まだかろうじて日本が勝ってる」というイメージですね。

安田

過去の貯金?イギリスみたいな?

久野

そんな感じですね。

安田

でもイギリスほど貯金ないですけど。どうしたらいいんですか。

久野

正直、中国に行って、日本が勝てる気しなかったです。

安田

私世代の経営者は「若かったら絶対に早い段階で日本出るよね」って人が多いです。

久野

いや、ホントにそんな感じですよ。

安田

日本の技術者も、どんどん中国に高い給料で引き抜かれてますし。

久野

やっぱり合理的ですよ。ビジネスのやり方も。たとえば目の前にデキそうな人がいたら「100万で明日から来てくれ」みたいな。

安田

デキそうなだけで?

久野

そういうスピード感なんですよ。で、1週間ぐらいたって「おまえ、やっぱダメだな」みたいな(笑)

安田

そういう場合はどうするんですか?

久野

日本より労働法が厳しいんですけど「200万払うから明日辞めてくれ」みたいな。

安田

それで働いてる人は「YES」って言うんですか?

久野

それが普通なので。「どこどこで技術者やってました」って、次に転職していく。

安田

日本だったら、しがみつく人もいるじゃないですか。そうならないんですか?

久野

国家全体が伸びてるので「次にチャンスがどんどんある」みたいな感覚ですね。

安田

共産主義って、基本的には貧富の差がないはずで、労働法も日本より厳しいわけでしょ?なんで簡単に解雇できちゃうんですか?

久野

いや、中国こそ資本主義なんですよ。日本の方が共産主義っぽい。

安田

確かにそうですね。労働力不足で転職先にもぜんぜん困らないはずなのに。

久野

日本って保守的なんですよ。新卒の給料もほとんど一律ですし、レールから外れたら「評価が下がる」というイメージ。

安田

確かにそうですね。中国では転職って、上がっていくイメージなんですか?

久野

そんな感じです。ステップアップしていくイメージを社会全体が持ってます。

安田

まとまったお金もらえるんだったら「辞めて転職するか」って感じ?

久野

そんな感じでしょうね、特に優秀な人は。

安田

そういうマインドにならないと、日本人もダメだってことですよね。

久野

日本でも優秀な人はそうなりつつあります。

安田

まあ早期退職制度とか、優秀な人ほど先に手を挙げますもんね。

久野

そう。だからお金もってる会社は揉めないんですよ。

安田

やっぱり一番しんどいのは、お金のない会社ですか。

久野

はい。お金がなくて、人を抱えちゃってる会社。

安田

リリースしたくても出来ませんもんね。

久野

おそらく、そこが日本社会の抱える最大の問題ですね。


久野勝也
(くの まさや)
社会保険労務士法人とうかい 代表
人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。
事務所HP https://www.tokai-sr.jp/

 

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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