レバレッジの境目

レバレッジとは“テコの原理”を
ベースとしたビジネス理論。
出来るだけ小さな力で大きな成果を上げること。
この理論自体に否定すべき要素は見当たらない。

出来るだけ小さな労力で、出来るだけ楽をして、
出来るだけ大きな成果を上げる。
まさに経営者のなすべき仕事だ。
問題はその手法である。

多くの経営者はこのように考えていないだろうか。
レバレッジが効くビジネスとは、
スケールするほどに生産性が高くなるビジネスであると。
いわゆる規模の経済効果というやつだ。

たとえば外食チェーン店なら、
店を増やせば増やすほど食材の仕入れコストは安くなる。
社員教育もマニュアルによって効率化される。
店舗デザイン・什器・食器も統一できる。
そうやってどんどんレバレッジが効いていく。

オペレーションを統一することによって、
効率化とともに顧客への信頼も高まる。
どの店で食べても、誰が調理しても、同じ価格で同じ味。
だがこの企業努力は皮肉なことに
お店のブランド価値を劣化させていく。

このモデルと対極にあるのが
オーナシェフのいる個人店だ。
そこでしか味わえない料理。
そこでしか味わえない雰囲気。
人気の個人店にはその価値を生み出している
オーナーシェフの存在がある。

わざわざそこに行かないと食べられない。
その人が調理しないと同じ味にならない。
この効率の悪さがブランド価値を生み出しているのである。
人気の個人店が2号店・3号店と増やしていき、
気がついた時にはブランド価値が損なわれている。
これは飲食に限らずよくある話だ。

大きくすることによるレバレッジ効果。
これは確かに存在する。
だが100%ではない。
じつは大きくしないことや、
逆に小さくすることによって生まれる
レバレッジ効果もあるのだ。

その人でなくてはならないという効率の悪さが
別のビジネスモデルでは最大の価値となる。
つまりそこではボトルネックが
商品価値にレバレッジを利かせているのである。

拡大することによってレバレッジを効かせるビジネスを
私は否定しない。ただここで勝つのは容易ではない。
最終的には規模と資金力による価格競争になるからだ。
小さな会社には真逆のレバレッジが向いている。

ただしこちらに舵を切るなら真逆の経営努力が必要だ。
効率の悪さ、無駄なひと手間、
特定の人に依存する状態を、決して否定しないこと。
それこそがレバレッジを生み出す価値の源泉なのである。

 


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