赤い出口、青い出口 第27回「『自己紹介』できない日本人」

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自覚して生きている人は少ないですが、人生には必ず終わりがやってきます。人生だけではありません。会社にも経営にも必ず終わりはやって来ます。でもそれは不幸なことではありません。不幸なのは終わりがないと信じていること。その結果、想定外の終わりがやって来て、予期せぬ不幸に襲われてしまうのです。どのような終わりを受け入れるのか。終わりに向き合っている人には青い出口が待っています。終わりに向き合えない人には赤い出口が待っています。人生も会社も経営も、終わりから逆算することが何よりも大切なのです。いろんな実例を踏まえながら、そのお話をさせていただきましょう。

第27回 「自己紹介」できない日本人

【日本はオーガナイズされている】

海外で外国の方と話をすると、日本車の話やサッカー選手の話、東京や京都の都市の話、地震や津波の話などで盛り上がります。
なんでそんなことを知っているの?という人にも出会います。

「日本はオーガナイズされた国だ」
ドバイに住んでいた時にバーで出会った、日本通のおじさんにそう言われたことがあります。
彼が言うには、地震で大きな被害を被っても、日本ではパニックを起こす人はいない。
政治も民間も助け合って復興に努力をしている。
誰と会っても時間も守るし、公共交通機関が遅れることもない。
日本車にしても、きちんとした手順でみんなで作り上げないと、あの精度でモノづくりはできない。
ああ、そのとおりですね。
私はそれを誇らしい気持ちで、聞いていました。

そして、そのおじさんが付け加えたのは、日本人は恥ずかしがり屋だということ。
日本人はメールは上手だけれども、あまり会話で感情表現をしないということ。
「マツオさん、あなたのように。日本人はそれもオーガナイズされてるね。」

【日本人はシャイなのか】

英語が上手ではない私は、夜な夜なドバイのバーに繰り出していました。
知らない人と会話を繰り返しながら、英語を覚えようとしたのです。
ドバイのように、ほとんどの人が第2言語の英語で会話をする場所に行くと、それぞれの人が勝手に”英語らしきもの”で意思疎通をします。
3ヶ月も経てば、恥ずかしさもなくなり、だんだんコミュニケーションがとれるようになってきました。
件のオーガナイズおじさんとも幾度となく会うことになり、日本車や地震の話をひと通り済ませた後は、個人の話になってきます。
しかし、そこまでいくと、急にコミュニケーションが取りづらくなったのです。

大学でどんな勉強をしたのか。そこからなにを得たのか。
今なにをしたいと思っているのか。
将来どこに住むつもりか。なぜそこがいいのか。

就職活動している学生に聞くような質問ばかりになります。
何回かやり取りをするうちに、このような個人の考え方を問うような質問に、明確に答えることができないことに気づいたのです。
英語でコミュニケーションできないのではなく、「ない」のです。

毎回返答に困っている私に、オーガナイズおじさんはいいました。
「日本人はシャイだね、オープンマインドで!」

【自分がないことに気づく】

日本で生活していると、全く感じることはなかったのですが、自己紹介ができないのです。
それまでは自分を紹介するときに、名刺、大学名、地元の話、偏差値、所属する企業名、扱う商材などを語ります。
すべて他者を出してしか、自分を説明できないことに気づいたのです。
英語が問題なわけでも、恥ずかしがり屋なわけでもありません。

オーガナイズされた(組織化された)私は、日本人という組織にいつの間にか自分自身を同化させていたのだと、感じるようになりました。
今でも、それ自体は悪いことだとは思っていないのですが、自己紹介くらいできるようにならないと、ちょっと恥ずかしいなと思うようにはなりました。
40歳過ぎてからの、自我の芽生えです。

【自我と組織と】

オンライン化、リモートワーク、副業、フリーランスなど、組織としてよりも個人として動く機会が増えてきています。
個人で生きていくうえでは、組織に依存しない個人のあり方が、問われていると感じます。
逆に言うと、これまでオーガナイズしていた会社としては、自我の芽生えつつある個人を、どのように活かしていくかが重要です。

これから、外国人もたくさん組織の一員になっていくでしょう。
中小企業も海外にどんどん進出せざるを得ないと考えます。
そんな世の中で、個人にとって大事なことは、所属コミュニティに依存するのではなく”個”を持つことだと感じます。好きなこと、嫌いなこと、許せないことややってみたいこと。自分の納得できる答えを、自分の人生に照らし合わせて、言葉にできるのが良いかと。

反対に会社や組織にとっては、自我を持った個人を活かせる組織に生まれ変わるのがとても重要です。
個人の自我を埋没させるような組織化は、社員が離れていくのではないでしょうか。
会社としても、個人が「自己紹介」できる状態は、とても心地良さそうです。

次回は、個を活かせる組織について、考えてみたいと思います。

 


- 著者自己紹介 -

人材会社、ソフトウェア会社、事業会社(トラック会社)と渡り歩き、営業、WEBマーケティング、商品開発と何でも屋さんとして働きました。独立後も、それぞれの会社の、新しい顧客を創り出す仕事をしています。
「自分が商売できないのに、人の商品が売れるはずがない。」と勝手に思い込んで、モロッコから美容オイルを商品化し販売しています。<https://aniajapan.com/>
売ったり買ったり、貸したり借りたり。所有者や利用者の「出口」と「入口」を繰り返して、商材を有効活用していく。そんな新規マーケットの創造をしていきたいと思っています。

出口にこだわるマーケター
松尾聡史

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