マスクが隠すもの
【国境で止められる理由】
「スーツケースを開けてください」
無表情な検査員に言われることがよくあります。
数年前、ドバイ経由で
ケニアとウガンダを訪問した際は、合計7回。
X線検査機を通るたびに開けさせられました。
私は中肉中背で、
身なりも汚くないし、
黒縁めがねの典型的な日本人です。
やましいことなんてあるはずもありません。
しかし、
人種や性別、時を超えて、
あやしい人認定を受けているのです。
もはや、グローバルスタンダードです。
「顔があやしいからだよ」
国境の先で待っている同行者から言われて、
私の国境を越える儀式は終わります。
そんな私にも朗報がきました。
国境を越える際の理不尽な扱いも、
個室に連行されるかもしれないドキドキも、
無くなるかもしれません。
そう。マスクです。
今は実証する機会はありませんが、
マスクをしていれば、
国境をすんなり越える事ができるはずです。
だって、
あやしい顔が隠れるわけですから。
【マスクは顔を隠すものか】
だいたい、
「あやしい顔」って誰が決めるのでしょうか。
人から「あやしい顔」と言われると、
自分でもそう思い込んで、
あやしい顔を持つ人の振る舞いになり、
さらにそれを見た人が
あやしい顔の定義を決めていく。
インターネットではそれに拍車がかかります。
「あやしい顔」を画像検索して、
みんながクリックすると、
あやしい顔の典型が形づくられ、
さらに上位表示されるようになり、
あやしい顔の定義が固定化されていくのです。
言葉の定義は、共通認識であるといえます。
同じ青色を見て、これが青色だとみんなが思ったら
それが青色なのです。
ところが、
「世界が認めたあやしい顔」
という私についた間違ったレッテルも、
マスクのおかげで、返上するときが来ました。
マスクは、顔を見て、
その人がどんな人かという言葉や
共通認識も隠すことになるでしょう。
だって、顔が見えないのですから。
【あやしい顔の出口】
私にとって、
マスクは期待しかありません。
もし、国境で止められないのなら、
マスクであやしい顔を隠せたことになります。
もし、国境で止められたとしたなら、
あやしいのは”顔”ではないという証明となります。
とはいえ、
顔以外があやしいから止められるわけで、
今度はそれが明らかになってしまうのですが。