第111回 「非効率」なこだわりが生む、最強の価値

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第111回 「非効率」なこだわりが生む、最強の価値

安田

前回のブランドの話の続きになりますが、これからの時代、「美意識」や「美的感覚」を持って生きることがすごく大事になる気がしているんです。それは単に高いものを買うということではなく、自分なりの「美の目利き」ができるかどうかという意味で。


藤原

同感です。「美」や「アート」の解釈は人それぞれでいい。世間の評価に流されるのではなく、自分にとって何が美しいのかという基準を持つこと。

安田

私も若い頃は、わかりやすくバカラのグラスで酒を飲むのが「美意識」だと思っていました。実際、バカラにちゃんとした氷を入れて飲むと、氷がグラスに当たる音が全然違うんですよ。


藤原

ああ、いいですね。その音を聞きながら、悦に入っていたわけですね(笑)。

安田

「俺ってやっぱりこういう意識を持ってる人間だよな」なんて満足しながら飲んでました(笑)。でもだんだん歳を取ると、それが「興行的に演出された美」だと気づいてしまって。バカラで飲んでいる自分が、あんまり美しく感じなくなってきたんです。


藤原

若い頃は、わかりやすい記号としての美に惹かれますからね。私もバブル崩壊直後に社会に出た頃は、生産性や効率が全ての世界にいました。「仕事に美しさを持ち込むなんてナンセンスだ、そんなことにこだわっていたら利益が減るだろう」と切り捨てていた。

安田

へぇ、意外ですね。藤原さんにもそんな「効率至上主義」の時代があったんですか。


藤原

ありましたよ。仕事はお金を稼ぐための手段でしかないと割り切っていたんです。でも余暇を使って美術館に行ったり美しいものに触れたりしているうちに、違和感を覚えるようになって。「仕事と美意識を切り分けるのは違うんじゃないか、仕事そのものが美しくあるべきなんじゃないか」と。

安田

そうなんですよね。私が思う「美しさ」って、きれいな絵画とか宝石だけじゃなくて、職人さんのこだわりとか、手を抜かずに磨き上げられた部分に見える「人間の生き様」みたいなものなんです。「こんなところ誰も見ないのに」という場所まで磨き上げている、その姿に美しさを感じる。


藤原

そうですね。昔のフェラーリや日本の伝統工芸品には、そういう「名もなき職人たち」の矜持が詰まっていた。彼らの労働に対する美意識が積み重なって、製品に魂が宿っていたんだと思います。本来、労働と美というのはつながっているはずなんですよ。

安田

本当にそうですよね。さっきのバカラの話に戻るんですけど、あるお店で100年前のアンティークのバカラで飲ませてくれるところがあるんです。当時は全部手作りだったから、同じデザインでも一つひとつ微妙に形が違うんですよね。


藤原

手作りの味があるわけですね。100年前だと、まだ大量生産の技術もそこまでなかったでしょうし。

安田

ええ。それに慣れてしまうと、今の大量生産されたバカラが、完璧すぎて逆に魂が入っていないように見えてしまって。もし割れて同じものを買ってきても、全く気づかないくらい均質化されている。そこに「人」を感じなくなっちゃったんです。


藤原

確かに。今作っている人には失礼かもしれませんが、昔に比べると味わいは薄れていますよね。おそらくフェラーリでも、数億円するようなトップモデルには今でも職人の魂が込められていて、シートのステッチ一つにもこだわっているはずです。でも数千万円クラスのエントリーモデルは、言ってみれば大量生産品です。

安田

そうなんですよね。大量生産品で稼いで、一部の超高級品でブランドイメージを維持している。言い方は悪いですが、「フェラーリもどき」や「バカラもどき」のマーケットの方が遥かに大きいですから。


藤原

1億円の車を売るより、数千万円の量産車をたくさん売るほうが総利益は大きいでしょうからね。ただ、フェラーリのようなブランドで面白いのは、顧客の要望に合わせてパーソナライズする数億円の上位モデルのほうが、利益率は圧倒的に高いと言われている点です。彼らはその両方の特性をうまく使い分けながらビジネスをしている。

安田

なるほど、どちらも重要だということですね。ちなみに我々のようなスモールビジネスをやっている場合は、どちらを目指すべきなんですかね。個人的には「こだわりモデル」の方にいくべきで、「量産品」の戦い方をする必要はないと思っているんですけど。


藤原

私もそう思います。もっとも、それは商品の価格帯の話ではなく、それこそ美意識の話なんだと思いますよ。効率が悪くても、自分が美しいと思える仕事、魂を込められる仕事ができるかどうか。それが結果として、他にはない価値を生むのではないでしょうか。

安田

ああ、仰るとおりですね。世の中が効率化やAI化に進めば進むほど、逆に人間臭い「非効率なこだわり」や「生き様の美しさ」みたいなものに、人は価値を感じるようになる。これからの仕事は、まさにその美意識が問われるんでしょうね。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

Twitter note

1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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