第254回「家電が凋落した3つの理由」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第253回「大手商社の現在と未来」

 第254回「家電が凋落した3つの理由」 


石塚

この本読みましたか?『日本の電気産業はなぜ凋落したのか』。

安田

いえ、読んでないです。

石塚

すごくおすすめです。めずらしく3回も読んでしまいました。

安田

へえ〜石塚さんがそこまで言うとは凄い。

石塚

なぜ日本がダメなのかっていうことを考えるうえで、すごくいい本です。「これは電機産業にとどまらんな」っていう。

安田

なぜダメになったんですか?

石塚

僕の理解でいうと3つ。1つはデジタル化の意味をよく分かっていなかったということ。

安田

デジタル化の意味?

石塚

つまりゼロイチの世界になると、いままで日本が得意としていた「高品質による差別化」が一切できなくなるってことなんですよ。

安田

そうなんですか。

石塚

この著者さんが主戦場としていたのがメモリの世界で。メモリ製品って昔はカセットテープだったわけですよ。

安田

懐かしい。

石塚

安田さん覚えてませんか?カセットテープってグレードがあったんですよ。

安田

覚えています。音質によって値段が違うっていう。

石塚

そう。音質がいいものを録るときにはメタルテープで。

安田

メタルテープ!懐かしい。いちばん高いやつ(笑)

石塚

そう高いやつ。で、どうでもいい録音はノーマルで。

安田

デザインも安っぽいんですよ(笑)

石塚

高品質のカセットテープをつくる工場って、膨大な設備投資が必要で。後発はなかなか参入できないんです。だけれどCD-Rになると事情が変わる。

安田

どう変わるんですか。

石塚

ゼロイチの世界だから、メタルとノーマルっていう品質の差がなくなるんですよ。

安田

なるほど。

石塚

つまりデジタル化というのは、製品の差がそんなに変わらなくなることを意味するわけです。

安田

競合他社が一気に増えたってことですね。

石塚

おっしゃる通り。だけど日本は高品質・高機能なものづくりにこだわっていたがゆえに、台湾や韓国に後塵を拝するわけです。

安田

おお!そうなるわけですか。

石塚

2つめは「油断」。

安田

油断ですか。

石塚

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とか持ち上げられて、バブル絶頂期にいい気になってしまった。

安田

日本人はうさぎと亀の話が大好きなのに。

石塚

「台湾?」「台湾なんかでいい商品がつくれるわけねーだろおまえ(笑)」って。

安田

まさか台湾や韓国に抜かれるとは思ってなったんでしょうね。

石塚

そう。まさしくうさぎと亀(笑)「韓国のサムスンの工場ができました」って日経の1面を飾られるなんて、30年前は誰も思わなかった。

安田

ですよね。

石塚

日本人には油断と慢心があったわけです。

安田

芸能でも韓国はすごいですよね。気づいたら韓国が世界を席巻してます。

石塚

そのとおり。韓国のアイドルは全員英語で歌えるから、世界市場でショーをやれる。日本で英語で歌える人なんて誰がいるのかって話ですよ。

安田

身近な勝てる相手を見下して慢心するって、最低ですよね。

石塚

島国の特徴ですね(笑)

安田

3つ目は?

石塚

3つ目は人事とか採用にも関わるんですけど。経営陣が責任を取らず現場の従業員をリストラして、責任の所在をあいまいにしたこと。

安田

経営陣は責任取ってないんですか。

石塚

取っていない。本社の作戦参謀にあたるようなところは誰ひとりリストラになってなくて。結局リストラになったのは現場に近い人ばっかり。

安田

大企業の経営トップって任期制で、何年かで入れ替わっていくじゃないですか。

石塚

そうそう。

安田

だから誰の責任だって言われても、いまいち明確じゃないんでしょうね。

石塚

そうなんですよ。

安田

そもそも経営陣もサラリーマンだし。

石塚

おっしゃる通り。この3つを著者の桂さんの実体験をもとに、すごくよく分析されていて。これは日本のあらゆるところに当てはまると思いました。

安田

自動車もそうなる可能性がありますか。

石塚

まさに同じことが起ころうとしてます。

安田

電気自動車になったら家電に近づきますもんね。

石塚

そうなんですよ。部品の差がなくなるってことです。

安田

トヨタは慢心なんてしないイメージですけど。

石塚

どうでしょうね。「あんなやつらに車なんかつくれねーよ」とか言ってるかも(笑)

安田

慢心とデジタル化と、もう1個はなんでしたっけ?

石塚

経営陣が責任を取らないこと。

安田

トヨタの社長は潔く辞めましたよ。「私の歳ではもう通用しません」って。

石塚

自動車って昔からグローバルで戦わざるをえなかったから。電機にくらべると危機意識があるんですよ。経営危機によそから社長を連れてきたり。

安田

ゴーンさんみたいな。

石塚

そう。再生した人も追い出しちゃったりして(笑)まあ自動車って電機にくらべると踏ん張ってますよ。EV化でどうなるか分からないけど。

安田

家電量販店に行けば、今でも日本メーカーの商品が並んでるじゃないですか。

石塚

並んでますね。

安田

何だかんだいって日本の家電は安泰のようにも見えるんですけど。

石塚

安田さんは「テレビ買いにいこう」となったときに、「日本製じゃないと」ってこだわりますか?

安田

べつにこだわらないですけど。結果的に日本製を買ってる気がします。

石塚

最新機種にこだわりますか?

安田

いや、最新機種は高いので。ちょっと手前ぐらいですかね。

石塚

ですよね。みんなそう言うんですって。もう品質の差なんかわからないし、8Kとか言われてもみんなきれいに見えるし、最新機種はとんでもない値段で出てくるから。

安田

そこまで出さなくていいやって思います。

石塚

昔からそうでした?

安田

いや。昔は無理して最新機種を買ってましたね。

石塚

みんなそうなんですよ。だけど今は「べつにこっちでもいいや」って。

安田

だって十分に使えるし。価格なんて最新機種の3分の1ぐらいだったり。

石塚

そこまできたらもうあっという間なんです。次は「別に国産じゃなくてもいいかな」って。若者はみんなそんな感じですよ。

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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