第160回 なぜこんなにもズレてしまうのか

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第160回「なぜこんなにもズレてしまうのか」


安田

育休が法改正?

久野

はい。4月から順次法改正されます。

安田

男性の育休が義務になるってことですか。

久野

制度として入れるのは義務ですよ、既に。

安田

違反しても罰則がなかったですよね。

久野

ないです。

安田

4月からは罰則ができるんですか。

久野

罰則はできないんですけど。いろいろ変更点が多いのですが一番大きな流れでいくと、令和5年4月から1000人以上の企業が「男性の育休取得状況」を公表することになったんです。年に1回。

安田

え!それだけですか。

久野

ホワイト化の経済競争をさせようとしてまして。要は「うちの方が取れてる」って競争してるうちに、取るのがスタンダードになっていく。

安田

なんて甘っちょろい。そんなことで育休取る人が増えますかね。

久野

それが当たり前になると、やらない企業は人が採れなくなっていきます。

安田

昔の完全週休二日制みたいな。いつの間にか完全週休二日じゃないと、人が採れなくなっちゃいましたもんね。

久野

はい。同じことが起こります。

安田

「え?土曜日、仕事なんですか」みたいな。同じことが男性育休でも起こると。

久野

そうです。令和5年の話ですけど、このまま行くとそうなります。

安田

ちなみに男性の育休って何日なんですか。

久野

マックス取ろうと思えば子供が1歳までですね。

安田

1年間給料が出続けるんですか?休んでも。

久野

頑張れば子供が2歳まで取れるんですけど。基本1年だと思った方がいい。

安田

給料は100%補償されるんですか。

久野

補償されるのは約67%です。

安田

残り33%は国が出してくれるんですか。

久野

国が出してくれるのが67%です。雇用保険から。

安田

じゃあ本人が受け取るのは67%だけ?

久野

はい。67%。

安田

となると「収入が減っちゃうから休めない」って人も出てきますよね。休ませたいのなら100%出せばいいのに。

久野

そうなんです。育休って企業が断ってるように見えるけど、じつは補償が甘すぎて取れないだけ。

安田

3割減ったらなかなか厳しいですよ。

久野

厳しいです。子ども生まれて今からお金が要るのに。1年間給与放棄するなんてできないですからね。

安田

せめて手取り分は補償してあげるとか。

久野

そうですね。

安田

企業も反対しないでしょ。自分の腹が痛むわけじゃないし。

久野

そう思います。

安田

今の制度だと休んだ人たちがしんどくなってしまう。

久野

ただ若い人は「育休は当たり前」という感覚なので。

安田

若い人はお金より休みってことですか。

久野

私の感覚ではお金の問題が大きいと思うんですけど。

安田

じつは私も2歳の子がいまして。1年間ガッツリ休んでまた戻るって、現場を知らない人の意見に思えちゃう。

久野

私もそう思います。

安田

その間、奥さんが何もしなくていいってわけでもないし。数年間に分けて取れるようにするとか。

久野

私の時は子どもが1歳になるまでしか取れませんでした。

安田

それが普通でしょうけど。

久野

それが基本ですね。

安田

1歳になるまでは「奥さんも大変だから休め」ってことでしょうね。

久野

大変なのはそこじゃない気がしますけど。

安田

そうなんですよ。そこから大変になるんです。1歳までも確かに大変ですけど。

久野

動き回る方が大変ですよね。

安田

はい。2歳になると力も強くなるし、言うことも聞かないし。しかも補償も中途半端だし。なぜこんなに中途半端なんでしょう。

久野

もともと「女性が育休に入ること」を前提につくられてる制度なので。

安田

男性向けじゃないと。

久野

男性は働き続けて、休んだ女性が「3分の2出るならいいんじゃないの」って。

安田

作り直せばいいのに。

久野

ゼロリセットはしないですね。

安田

継ぎ足していくから歪になるんですよ。

久野

そう思います。

安田

1年間ずっと休まないと駄目なんですか。1週間休んで、1週間出て、1週間休んで、みたいなのを2年間続けるとか。そういうのもOK?

久野

「生後8週間以内に最大4週間取得できた2回まで分割可能。出生後8週超えから子供が1歳までは、期間を問わず取得できますが分割は2回まで」という制度です。

安田

ややこしい。

久野

でも安田さんのいう通りだと思いますよ。1年がっつり休むのは大変ですから。

安田

だって扱ってる商品も、売り方も、変わるでしょう。逆に変わらない会社はまずいと思う。たとえば週3〜4日の休みが3〜4年続くとか。

久野

その方が奥さんは助かると思いますね。

安田

まあそれで出生率が上がるとは思えないですけど。

久野

私もそう思います。やっぱりお金の問題が大きいですよ。

安田

ですよね。収入が増えないなら少ない子どもに資源を集中させるしかない。

久野

産むこと自体が得になる政策じゃないと厳しいです。ハンガリーは4人産んだら所得税が無料になります。

安田

すごい!

久野

それぐらいやらないと無理でしょう。

安田

子供が2人いたら消費税を無料にするとか。

久野

3人以上産まないと人口は増えないけど。

安田

3人ってなかなか無理がありますよ。2人でもけっこう大変なのに。

久野

お金もめちゃめちゃかかります。

安田

大学も無償化すればいいのに。せめて国公立は無償に近い金額にするとか。

久野

学費は逆に上がり続けてますね。3人も大学に送りこんだら国民栄誉賞ものだと思う。

安田

子ども3人大学出そうと思ったら親はへろへろですよ。

久野

自由になるお金はほとんどないでしょうね。

安田

好きなことを全部諦めて、その見返りがあるのかも分からないし。

久野

子ども1人だったら、けっこう自由にいろんなことが出来ますから。

安田

なるべくして少子化になってますよ。なぜこの国の政策はこんなにもズレてしまうのか。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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